プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編21」

福居は最近JR摂津富田駅前で営業を始めた、とんかつ専門店松のやを何度か訪れた。最初はとんかつは脂っぽくて真夏に食べられるような料理ではないと福居は思ったのだが、ラム肉のかつやロースかつを食べるとしつこくなく特製ソースがおいしく岩塩や味噌カツソースも美味しかった。それで食べてしばらくは満腹感があるしだいたいの定食は680円で済むので、1回で1000円以上かかるぎょうざの満州はしばらく止めとこうかと考えたのだった。入口で食券を購入して近くの席に座っていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「私は上ロースやささみかつを食べたことがないのですが、ロースもラム肉も鶏の唐揚げも美味しいです。ここはキャベツも柔らかくて美味しいですし。カレーも注文できるので、メニューの選択肢が多いと言えます。何よりおいしいのは特製トンカツソースでとんかつと相性ピッタリです」
「ソウカ、ホタラトリアエズラムニクトジョウロースヲソレゾレ10ニンマエタノモカナ」
「一度に頼むとテーブルに乗らないので、2食くらいにして下さいね」
「ワカッタ、アンタノイウトオリニスルワ。トコロデ、キョウモクラシックオンガクノオモシロイハナシヲシテクレヘン」
「わかりました。それでは今日は前回、少し名前が出た、クラウディオ・アバドについてお話ししましょう」
「アバドハワシモスキヤデ」
「私の場合は、ブラームスの交響曲全曲(旧盤)、マーラーの交響曲の1、2、3、4、5、7(旧盤)とオペラがモーツァルトの「魔笛」、ヴェルディの「シモン・ボッカネグラ」と「アイーダ」と「仮面舞踏会」、ロッシーニの「セビリアの理髪師」と「シンデレラ」、ビゼーの「カルメン」などのレコードを持っていますが、この中ではマーラー交響曲第3番と第7番、ロッシーニの歌劇「セビリアの理髪師」が素晴らしいと思っています」
「カゲキ「セビリアノリハツシ」ハDVDモデテルネ」
「アバドは1990年にカラヤンの後任としてベルリン・フィルの芸術監督に就任しましたが、それ以降は私はアバドに興味がなくなってしまい、今でも同じです」
「ソレハナンデヤノン」
「アバドが良かった時というのは40代くらいまでだったと思います。先に挙げたレコードの他、チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」、モーツァルト交響曲第40番と第41番、それから協奏曲では、ミルシテインと共演したメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、グルダと共演したモーツァルトのピアノ協奏曲20,21、25、27が素晴らしいです。その後、ブレンデル、アルゲリッチ、ポリーニ等と共演していますが、この3枚のレコードほど高い評価ではありません」
「アンタガジッサイニキイタントチガウンカ」
「当時は新譜のCDを購入するためには3500円から4000円かかりました。今だと中古CDが1000円ほどで購入できます。また私は音楽之友社発行のガイドブックの推薦盤を購入していたので、評価が定まらない(やはり10年くらいしても評価が落ちないのが名盤と言えるでしょう)アバドやポリーニやアルゲリッチの新譜を買う気はなかったのです。それに中古レコードの内容、音質共に優れたものを探していたので、新譜CDは眼中になかったと言えます。アバドが1980年代半ばまでにロッシーニの歌劇「セビリアの理髪師」やマーラーの交響曲第3番のような飛びぬけた名盤を出していたら、アバドに注目したかもしれませんが第3の名盤は出されませんでした」
「ドンナレコードガキイテミタカッタン」
「シベリウス、グリーグの北欧もの、リムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」など私が好きな作品を取り上げなかったのもアバドの新譜を買わなかった原因なのかもしれません」
「タシカニカラヤンハソウイウトコロハキッチリトオサエトルワ」
「レコード芸術が休刊になりましたが、それに付随して音楽之友社のクラシック・ディスクの名盤、推薦盤の本がなくならないでほしいです。そうしないと見てくれの良いジャケットに釣られてつまらないCDを買ってしまう悲劇が頻発するようになります」
「アンタハソウイウケド、サイキンノワカイヒトハオンガクノトモシャノガイドブックニキョウミガアルノカナ。ケイタイノガメンバカリミテイルヒトガホンヤサンノテントウヤウチデガイドブックヲタンネンニヨムトイウノハカンガエラレヘンワ」
「そうですね、ガイドブックをいつまでも残してほしいというのは以前その恩恵を受けた人のノスタルジーなのかもしれませんね」