プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編24」

福居は昨年7月に63才で仕事をやめたが、秋の祝日(敬老の日、秋分の日、体育の日、文化の日、勤労感謝の日)は会社員の時も日帰りで1、2回旅行をしていたのでこの秋もどこかへ行きたいと思っていた。福居は近くのスーパーで寿がきやの岐阜タンメンを購入しその濃いニンニク味に魅せられたため、天下一品やヴァスコダガマのように実際その店を訪ねて食べてみたいと思っていた。一番近い店が大垣市内なので、ただニンニク味の野菜タンメンを食べるだけに大垣まで行く(片道2310円)のはもったいないと思っていた。そこで近江八幡の和た与で以前食べたことがあるういろうと丁稚羊羹を購入しついでに水郷巡りの写真も撮影しようと考えた。JR大垣駅に午前10時半過ぎに到着し、駅構内にある駅周辺地図を見ると南にしばらく歩いて大垣市民病院の前の通りを東に歩けば目的地に着くと見当がついたのでどのくらいかかるかをほとんど考えずに歩き始めた。<大垣市民病院の前の通りまで2キロ足らず、そこから大垣市民病院の前の通りを東に20分ほど歩けば岐阜タンメンに着くだろう>と考えたが、実際は1時間5分かかった。到着して店の外にあるトイレで用を済ませて列の最後尾に着いたが、同じ高校を出て5年くらいの男性5人女性2人の一団と半袖シャツから刺青をはみ出させた40才位の男性他の一団(どちらも7人組だった)の間に挟まれ福居は小さくなって順番を待った。35分待ってようやくカウンター席に座ることが出来たが、福居は野菜タンメン、トッピングに味付けタマゴ、替え玉、餃子を頼んだ。10分余りで食した後、店を出て近くのバス停から大垣駅行きのバスに乗った。近江八幡には午後2時前に着いたが、あろうことか駅の反対側に行ってしまい25分ロスしてしまった。仕方なく駅前でタクシーに乗り、うんちゃんに和た与近くに水郷巡りの乗り場とかお土産街とかがあるならその近くで降ろしてほしいと伝えた。うんちゃんは、水郷巡りの出発点から20分程のところにお土産を売っているところがあり和た与も近くにありますと言われた。福居はタクシーを降りてすぐに水郷巡りの案内の人に、今から水郷巡りできますかと尋ねたが、午後3時過ぎに終わりましたと言われた。仕方なく福居はお土産街へ向かったが、炎天下歩いているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「イマカライクトコロハナニガウマインヤ」
「今から行くのはタクシーの運転手さんから教えてもらったお土産街にあるお煎餅屋さんです。ぼくは生姜煎餅が好きなのであったら、買おうかと思っています」
「オオ、アンタガイウトルセンベイヤサンガアッタデ。チョウゴロウセンベイッテカイテアルヨ」
「じゃあ、入ってみましょう。でもここは750円する長五郎せんべいしか売っていないのかな。すみません、ここは生姜煎餅は売っていませんか」
「あるよ。生姜煎餅は300円やけど、長五郎せんべいもおいしいよーーー」
そういって店主が長五郎せんべいのサンプルせんべいを2枚も福居にくれたので、福居は勢いに押されて長五郎せんべいも買ってしまった。
「750エンモスルセンベイヲカウナンテユウガヤネ。コノアトモナニカカウンカ」
「近江八幡に来たのは今から行く和た与でういろうと丁稚羊羹を購入するためなんです。多分、近江米の米粉を原料にして作ったういろうは美味しいですし、価格も安いでしょう」
「ホタラ、ワシモウイロウヲカウカラネ。ホンデーソコノシンマチノバステイノベンチニコシカケテクラシックノオモシロイハナシヲシテチョウダイ」
「わかりました。でも和た与でういろう100人前くださいというのはやめてくださいね」
「エエヨ、20ニンマエニシトクカラ」
ふたりはそれぞれういろうと丁稚羊羹を購入した。福居は新町のバス停のベンチに腰掛けたが、宇宙人は福居の太ももの上にお尻を置いて2、3度振ると
「コレデヨシ、イツデモハナシテ」
と笑顔で言った。
「今日は久しぶりに8キロ以上歩いたので疲れています。すみませんが、谷さん、ベンチに直接座ってください」
「ソウナンヤ、ザンネンヤナー、ホタラジカイニスルワ」
「次回もやめてください。ところで谷さんは、指揮者が自前のオーケストラを知っていますか」
「シットルヨ。ヒトツハパイヤールガソシキシタフランスノパイヤールシツナイカンゲンガクダンヤネ。コノオーケストラガトクイナノハバロックオンガクトモーツァルトガサッキョクシタオンガクヤネ。ソレカラドイツノカール・リヒターガソシキシタミュンヘン・バッハカンゲンガクダン。コノオーケストラハバッハノオンガクダケヲエンソウシテタネ。ソレカラシキシャハオランネンケド、イタリアノイ・ムジチガッソウダンモニタヨウナモンヤネ。ヴォヴァルディノオンガクヲチュウシンニシテバロックオンガクヤモーツァルトガサッキョクシタオンガクヲエンソウシテイルンヤネ」
「その通りです。このようなタイプのオーケストラのメリットとデメリットってわかりますか」
「ソウヤナー、3ツトモコウセイインガシンミツナナカヤカラカンケイガウマクイッテサクヒンガネリアゲラレタラエエレコードガデキタヤロネ。デメリットハヒトリノニンゲンガデキルコトハカギラレテイルカラ、バロックトモーツァルトガアタッタカラ、コウキロマンハノヨウナダイヘンセイノオーケストラキョクヤオペラヲヤロウトイウワケニハイカンヤロネ」
「そうです、指揮者がひとりしかいなかったあるいはなしだったので、彼らのレパートリーは限られていました。もう少し別の作曲家の名曲を演奏してほしかったなと思うんです」
「タトエバ、ドンナンガキキタカッタノ」
「リヒターはモーツァルトのレクイエムを録音していますが、交響曲や管弦楽曲は手付かずです。ベートーヴェンも同じです。ロマン派の曲は無理かもしれませんが、古典派の作品、できればベートーヴェンの「英雄」や「田園」「合唱付き」を入れてくれたら後世に残るレコードになったんではないかと思うんです」
「リヒターガシキシタダイクハオモシロカッタカモシレンナア」
「パイヤールの至高の名盤はランパル、ラスキーヌと共演したモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲だと思います。ランスロのクラリネット協奏曲も素晴らしいです。だから他の時代の美の極致というような作品を録音してほしかったなぁと思うのです」
「ドンナキョクガエエンカナ」
「ブルックナーの交響曲第7番です。ウィーン・フィルでなくパイヤール室内管弦楽団でやってほしかったのです」
「タクサンノオウエンガヒツヨウヤロケドヤッテホシカッタネ。ホンデー、イ・ムジチガッソウダンモナニカアルンカ」
「やはり弦楽合奏のためのオーケストラなので弦楽合奏の曲ですね。バロック音楽とモーツァルトが作曲した音楽しか録音しなかったので、チャイコフスキーとドヴォルザークの弦楽セレナーデ、それからシューベルトの未完成交響曲なんかもやってほしかったですね」
「マア、イマトナッテハカナワンハナシヤガ、アンタヤッタラレコードガデテタラカットッタヤロネ」
「そうですね、レコード芸術でそこそこの評価がされていたら買っていたかもしれませんね」