プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編28」

福居は、今から二十数年前、中古レコード店でアナログレコード漁りをするために阪急東通り商店街近辺をしばしば徘徊した。最初に見つけた中古レコード店は名曲堂で、その向かいのスマイルレコーズにもしばしば足を運んだ。店名は忘れたが(ということは今その店がなくなっているわけだが)、ムードミュージックのアナログレコードばかりを扱う店、4畳半くらいの狭さの中古クラシックレコード専門店などもあった。少し離れたところにあるストレートレコードは今でも3年に一度くらいは行くが、一番よく行くのは、アクトスリー(ACT Ⅲ)ビルにある中古レコード店である。以前は、ディスクJJという店名だったが数年前にディスクユニオン大阪店となり、その向かいにはポップスの同店もあるが福居が行くのは専らクラシックの店の方である。福居がディスクユニオン大阪店のアナログレコードのコーナーに入ると、後ろからついて来ていたM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ああ、谷さん、ここは飲食店でないので、旨いものはありません。それに最近、ステルスマーケティングはいけないよとテレビで言っているのを見て、ぼくも似たようなことをしているんじゃないかと思って反省しているんです」
「キニセンデエエヨ。ワレワレハタダオモロイコトヲイウトルダケデ、オミセノセンデンヲシトルノトチャウンヤカラ。ホンデ、ココニクウモンガナインヤッタラ、アンタナニシトルン」
「ノスタルジーというか、今から20年程前にこのあたりをウロウロして何枚ものクラシックの中古レコードを購入していたんです。それで今でも3ヶ月から半年に一度はこの辺りを歩きたくなるんです。でも最近中古レコードを買うのは新宿のディスクユニオンですから、結局、ここで購入するのは、CDを2、3枚だけということになるんですが」
「ソウカ、ワシモ、ツキノナンキョクデゲツメンチュウガエリヲシタリ、コウホウシンシンチュウガエリ2カイヒネリヲシタクナルトキガアルネンケドソウイウカンジカナ」
「そうですね、それに近いと思います。せっかく、こうしてお会いしたんですからどこかでクラシック音楽の話をしましょうか」
「ウン、ソウシテソウシテ」
「それでは今日は、この名曲はこの演奏に限る オーケストラ編というのをやりたいと思います。ぼくが言っているのは、このレコードを聞けば、もうこれ以上何もいらないと思わせる名盤のことです」
「ドンナノガアルノ」
「まずはやはりメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」です。序曲「フィンガルの洞窟」の後、この曲が入っている、ペーター・マーク指揮ロンドン交響楽団のレコードを上げたいと思います」
「クレンペラーヤアバドノホウガチメイドタカイヨ」
「そうかもしれませんが、このレコードに針を下ろすと漂うしっとりとした雰囲気は他のレコードでは味わえないものです」
「ソウカ、ホシタラ、ワシモキイテミルケドツギモアルンヤロ」
「次はやはり、ハイフェッツが演奏した、ブルッフのスコットランド幻想曲です。2つのレコードがあり、旧録音はSP盤の頃のスタインバーグ指揮のレコード、新録音はサージェント指揮のレコードでいずれもRCA盤です」
「アンタ、ソレハチャウヨ。ハイフェッツノレコードヤッタラ、ヴァイオリンヘンニイレントダメジャナイノ」
「そうかもしれませんが今ふと、スコットランド幻想曲のハイフェッツのソロ、スタインバーク指揮のレコードをスマイルレコードで購入した時のことを思い出してノスタルジーに浸って脱線してしまいました」
「ソウナンヤネ、ソウヤッタラキニセンデエエヨ。ホンデツギハナンヤノ」
「やっぱりアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団のファリャ「三角帽子」ですね。この曲は打楽器の演奏と女性歌手の歌声出来次第で決まると思うのですが、それが完璧でこの演奏は何度聞いても楽しいです」
「マダマダアルンヤロ」
「頑張ってみます。次は、以前、セルの名盤の話をした時に取り上げなかったセルが指揮したレコードです」
「アノトキハシューマンノコウキョウキョクダイ3バン、ブラームスノコウキョウキョクダイ3バンナンカヲイウテタネ」
「それらもすばらしいのですが、リヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」も名盤だと思います。チェロはフルニエです」
「ホカニモアルノヤネ」
「スメタナの「わが祖国」はターリッヒ指揮チェコ・フィルが一番と言われて、第1曲のヴィシェフラッド(高い城)の出だしのハープの音を聞くとぽろぽろと涙が落ちそうになるのですが、やっぱり音の良いクーベリック指揮ボストン交響楽団のレコードの方がよいでしょう」
「アトフタツハマーラーヤロ」
「そうですね、交響曲第3番はアバド指揮ウィーン・フィル、交響曲「大地の歌」はワルター指揮ウィーン・フィルはどちらもすばらしいです」
「ブルックナーナドウナン」
「クレンペラーが演奏した第9番はいろいろご意見があるようですが、ぼくにはこれがいちばんの演奏です」
「カラヤンサンガデーヘンカッタケド、ナニカナイカ」
「チャイコフスキーの交響曲第1番です。スベトラーノフのレコードもいいですが、カラヤンの演奏は洗練されていて演奏もうまくて録音もよいです。一度しか録音しなかったリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」も素晴らしい演奏だと思います」
「ワシハトモダチカラオシエテモラッタ、チャイコフスキーゲンソウジョキョク「テンペスト」ノスベトラーノフバンガスキナンヤケド、アンタハドウヤ」
「このレコードはすばらしいですよ。ぼくは大学2回生の時友人の友人から紹介してもらったんです」