プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編29」

福居は6月からLPレコードコンサートを再開したが、名曲喫茶ライオンを訪ねることはなかなかできなかった。コロナ禍のため名曲喫茶ライオンの開店が午後1時からとなり、福居の経済的事情から日帰りでLPレコードコンサートを開催することになったため以前のように午前11時開店後すぐやLPレコードコンサート前日に訪ねることができなくなったためだった。10月7日にディケンズ・フェロウシップの最後の秋季総会(来年度からは基本的に6月に開催される春季総会だけになる)が中央大学茗荷谷キャンパスで開催されることになり、午後3時開始のためその前に名曲喫茶ライオンに寄ってから秋季総会の会場に行くことにした。JR渋谷駅でおりてスクランブル交差点2つ通って109を過ぎて道玄坂を登っているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「シブヤハオイシイモンガヨウケアルネ」
「そうですが、ぼくは今から名曲喫茶ライオンに行きます。昼食は御茶ノ水の洋食カロリーで済ましました」
「ナニタベタン」
「いつもと同じようにジャンボ(スバゲッティの上に焼肉、唐揚げ、ハンバーグが乗ったもの ライス付き)にトッピング(ハンバーグ)を一つ追加したものを食べました」
「シブヤノオイシイヨウショクテンシランノ」
「ぼくはグルメと言えないので、1食で2、3千円も使うような昼食を食べることはほとんどありません。以前、幸楽苑によく行っていたのですがそこがなくなって渋谷で昼食を食べることがほとんどなくなりました」
名曲喫茶ライオンの前まで来ると、宇宙人は立ち止まり話した。
「ホタラ、イツモノヨウニクラシックオンガクノハナシヲシテチョウダイ。メイキョクキッサノテンナイデハオシャベリハデケヘンカラココデハナシテ」
「わかりました。今日、このレコードバッグの中にいくつかのアナログレコードが入っていてそのうちのどれかを掛けてもらおうと思うのですが、何を掛けてもらおうと思っているか、谷さん、わかりますか」
「アンタハサイキンクラリネットノレッスンデナラッテイルノガ、ラフマニノフピアノキョウソウキョクダイ3バンダイ1ガクショウノデタシノトコロヤカラ、ソレトチャウノン」
「あたりです。よくわかりましたね」
「ショウモナイ、オベンチャラワイワンデヨロシ。ツイデニソロハアシュケナージナンヤロケド、2ツレコードガデトルネ」
「そうです、アシュケナージはデッカと契約しているのでいずれもデッカ録音ですが、ひとつはフィストラーリ指揮の1963年盤でもう一つはハイティンク指揮の2014年盤です。ぼくが今持って来ているのはフィストラーリ盤の方です。若き日のアシュケナージがロシアの大地を彷彿とさせる伴奏に乗ってロマンあふれる演奏を繰り広げています。ホロヴィッツのレコードが名盤と言われていますが、あのギラギラしたものより、若々しい息吹がさわやかでこちらの演奏の方が素晴らしいと思います」
「ソレガコノアトライオンノソウチデキケルンヤネ。タノシミヤワ。トコロデアシュケナージハショパンヤベートーヴェンノピアノオンガクヲタクサンロクオンシトルヤロ」
「そうですね、ショパンは全集が出ていますし、ベートーヴェンはピアノ・ソナタとピアノ協奏曲を全曲録音しています。ぼくが個人的に好きなのはシューマンのクライスレリアーナです」
「ワシハモーツァルトノピアノキョウソウキョクガスキヤネン。シキシャガイナイノニヨクヤルナァトオモウンヤ」
「ぼくは第20番以降の一部しか聞いていませんが、とても良かったという記憶があります。そうした大作曲家のピアノ音楽をたくさん録音していますが、ぼくはパールマンと共演した、フランクのヴァイオリン・ソナタ、ブラームスの3つのヴァイオリン・ソナタ、ベートーヴェンの「春」と「クロイツェル」なんかもよく聞きます」
「ソノウエサラニシキシャトシテモタクサンノレコードヲノコシテハル。ドコニソンナジカンガアッタンヤロネ」
「以前、テレビでアシュケナージのピアノ演奏について言っていました。それによると毎日10時間練習していると言っていました。いろいろな誘惑を拒絶して一所懸命練習したからもともと才能があったので開花したのでしょう」
「ホカニモアルヤロ」
「そうですね、アシュケナージは指揮者としても秀でていてロシアものの他にベートーヴェンやシベリウスなども録音していますが、NHK交響楽団の音楽監督を2004年から2007年まで勤めています」
「ソンナナカデモイマカラカケテモラウレコードガイチバンエエトオモウンヤネ」
「よくアシュケナージの演奏は中庸の美と言われます。派手さはないですが、いかにも長い時間を掛けて練習して自分の演奏を磨き上げて録音しています。ぼくはピアノのフォルテッシモがやかましく思ったり音程が怪しいと思ったら、聞く気が失せてしまうのですが、アシュケナージの場合はそのようなことはなく心地よいものでいろいろ聴いてみたいのですが、このレコード以外には極めつけの名盤というのがなくて残念に思っています」
「ワシハアシュケナージガNキョウヲフッタガゾウガナインカナトオモウ。ベ^トーヴェンヤシベリウスノコウキョウキョクヲアシュケナージノシキデノコッテイタラ、ホウソウシテホシイナトオモウンヤケド。ドナイヤロカ」
「そうですね、ぼくも見たいです」