プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ブームがマニアを作り出す編」
わしが幼少の頃、情報としてあったのは近所の小学生の間で交わされた会話で、めんこ(大阪では言い間違えると大変なので、べったんと言っていた)、ビー玉(大阪ではビーダンと言っていた)、陣取り遊びなどが面白いと小学校低学年の生徒の間で広まった記憶がある。それでも1年もするとべったんとビーダンは禁止令が学校から出てできなくなった。べったんやビーダンを賭けるので教育上よろしくないということだったみたいや。それで仕方なく石を指で弾いて陣取りをする陣取り遊びを広場でしたりした。でも陣取り遊びにはべったんやビーダンのような華やかさがなかった。べったんはいろんなカラフルな絵柄があったし、ビーダンは一見して黒だが日に翳すと模様が入っていたり透明な中に鮮やかな模様が入っていたり白い玉に模様が入っていたりした。地面に線や半円を描くだけの陣取り遊びは地味で躍動的でないので、すぐに廃れて誰もしなくなったんやった。わしが小学校高学年の頃になると巨人がV9の途上やったもんやから、野球ブームになってわしの近所の子供らも三角ベースに夢中になった。わしは守備が下手で玉を打つのもあまり上手くなかったもんやから野球には行かんようになってしもうて、近くの図書館へ毎週末に通うようになった。その頃は、『小説巨人の星』とか『小説水戸黄門』とかテレビ好きの子供には垂涎の本があったが、希望者が多くてすぐに借りることがでけなんだ。それでシャーロック・ホームズの本をいくつか読んだんやった。社会人になってからエラリー・クィンの本やメグレ警視の本を2、3冊読んだけど中学生、高校生、大学生の頃にホームズ以外の推理小説を読むことはなかった。中学生になると生徒同士の情報交換もあったんやが、やっぱりラジオ特に深夜放送でいろんな流行物の情報を手に入れたんやった。一番最初に夢中になったんはベリカード収集やった。日本だけやなく海外も放送局に受診報告書というのを送ると「受診報告おおきに」とベリカードを送って来た。わしは日本の放送局20程しかでけんかったけど色とりどりの趣向を凝らしたベリカードは今でも大切に保管しとる。それとほぼ同時期に凝ったのは切手収集で、国立公園、趣味週間、いろんな日本の記念切手を30枚ほど購入した。家から自転車で30分程のところにある民家に買いに行ったが、10回ほど行った頃に坂道でブレーキが効かず際にある民家に突っ込んだ、自転車が少し破損して怪我はなかったがそれから切手購入のために出掛けることはなくなった。高校に入るとすぐに写真部に入ったが、ある時同級生の生物部の部員が、今、見頃のウエスト彗星を撮りたいので君の200ミリ望遠レンズと三脚で撮ってもらえないかと言われた。3学期の期末試験の真っ最中の午前3時を指定されたが快く引き受けた。それでうまく撮れていたら、のめり込んだかもしれないがわしの場合はいつでもストッパーが掛かるみたいや。天気は良かったが、その友達がフィルムの高感度現像を希望したが原液を使わないといけないのに半分に希釈してしまい、ほとんどフイルムにウエスト彗星の画像が残らなかった。天文についてはその前後にジャコビニ流星雨、月食、部分日食などの天体ショーが世間を賑わしたが、わしは写真で撮ることはやめて、専ら肉眼で見るだけにしとる。船場はわしと同じように中学生の頃からいろんなことに興味を持ちよって、1997年にヘールボップ彗星が出現した時にはこれは撮らな損やと思うて高額な天体望遠鏡一式を50万円(もちろんローンや)で購入しよった。あいつ自宅に天体観測用のドームもないのにようやるわ。両親の同意を得て実家の屋根上に観測するための仮屋上?を作ってもらって観測を始めたが、5、6回天体観測をやったところで仕事が忙しくなってそれどころでなくなり天体望遠鏡はお蔵入りになったみたいや。あいつ最近その望遠鏡の再就職が決まったんですちゅーてたけど、どういうことなんやろ。気になるから訊いてみたろ。おーい、船場ーっ。おるかーっ。はいはい、25年以上お蔵入りになったままの私の天体望遠鏡がどうなるんか、にいさんは気にしてくれてはるんですね。そうや、せっかく立派な天体望遠鏡として誕生したのにお前みたいな中途半端な使い方しかようせん男に買われてしもうて25年以上オクラ入りや。そうですね、にいさんが言われるように私の天体望遠鏡くんはそう思っているかもしれませんね。ほんで、あんたどうするの。最近、母校の大学図書館に通って懸賞に応募する小説を書いていますが、ふと、使われずに押し入れに入れたままになっている天体望遠鏡のことを思い出したのです。以前なら天体観測をする場所があったのですが、私が公団住宅に住むようになってその仮屋上?が撤去されて観測ができなくなりました。今から15年程前のことだと思います。その頃から天体望遠鏡を売るか、誰かに差し上げるか、母校の天文部に寄贈するかを考えるようになったのですが、やはり一番利用してもらえるのは母校の天文部ではないかと思ったのです。詳細は省きますがチョットしたことがあって大学の事務局と話す機会があり、天体望遠鏡の寄贈を申し出たら受け入れますと返事をいただき寄贈が決まったのです。後はどのようにして持って行くかなど詰めないといけないことがありますが、年内には私の元を離れて、新しいところで目一杯活躍してくれると期待しているんです。私は大切にしてもらって長く天体望遠鏡を使ってほしいと面談の場で言ったのですが、手渡したのちは後輩たちの持ち物になるのですから任せることにしています。それでもたまには見せてほしいと言ってあります。その天体望遠鏡はどんなんなの。タカハシというメーカーのFS102という機種でそれに赤道儀ED10と三脚がつきます。赤道儀を動かす12ボルトのバッテリーもあります。アイピースは木星、土星観測用のものも別途購入しています。天体写真を撮りたかったので、オリンパスOM-1用のアダプターと中古のOM-1を購入しました。これだけあれば、基本的な天体望遠鏡での天体観測は可能です。26年近く押し入れに眠っていたので動くかどうかですが、動かない場合の修理はしてもらうよう説明しています。そうか、活躍の場ができたんで、天体望遠鏡さんも喜んではるやろ。目出度いことや。私も天体望遠鏡が無傷で受け入れてもらえたら母校に喜んでもらえることになるので、うまく行ったらいいなと願っているんです。