プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編31」

福居は今までにJR大和路線で奈良より東に行ったことはなかったが、松本清張著『京都の旅1』を読んで浄瑠璃寺を訪れたいと思った。松本氏が魅せられた九体の阿弥陀仏、吉祥天立像、三重塔を見たいと思ったからだった。期待に反することなく、いずれも素晴らしい福居の心を癒すものだった。午前中に拝観を終えたので午後からどうしようかと考えたが、せっかく奈良の近くまで来たのだから前回奈良に来た時に行きそびれた彩華ラーメン奈良店に行くことにした。JR奈良駅前からタクシーに乗り、暗越奈良街道脇の景色を眺めているとタクシーの近くで5分の1の大きさになったM29800星雲からやってきた宇宙人がタクシーと並行して飛んでいるのが見えた。宇宙人が手を振ったので、福居はそれに応えた。宇宙人がタクシーの窓を開けるようにというゼスチャーをしたので、福居は運転手に断って窓を開けた。すると宇宙人はそこからタクシー内に入り、福居の横に腰掛けたと思ったらいつもと同じ大きさに戻った。運転手が、彩華ラーメンに着きましたよと言って後ろを向いたので、福居は2千円を渡したが釣銭が100円少なかった。宇宙人が、ツリセンゴマカシタラアカヘンヨと言ったので運転手はぎょっとしながら、すみません、間違えましたと言って百円玉を宇宙人に渡した。運転手は仕事が忙しいようだったので、頻りに首を傾げるだけでその場から離れて行った。
「トツゼンジョウキャクガフタリニナッタノニ、キジョウナウンテンシュサンヤネ」
「谷さん、あんまり人が驚くようなことはしない方がいいですよ」
「アンタ、100円オツリガスクナクテモヘイキナンカ。ビンボウセイカツシテルノニ」
「最近は送車だけで300円追加になったりしますから。タクシーの運転手さんも減っているので、100円少ないと文句を言うより関係を大切にしないといけないと思います」
「ソウナンヤ、ホタラ、ワシモコレカラハタクシーニノッテカラシランウチニキエルノハヤメトクワ」
「そうしてください。きっと今の運転手さんは忌まわしい記憶を消すのに時間がかかると思いますから」
「トコロデ、コノラーメンテンハナニガウマインヤ」
「彩華ラーメンは白菜、豚肉、ニラ、ニンジンを煮込んだスープが美味しいんです。ぼくは最初キムチを煮込んでいるのかなと思ったのですが、どちらかというと白菜と豚肉の鷹の爪入り甘煮という感じのスープが細麺にピッタリという感じのラーメンです」
「アンタ、ナニタベルノン」
「彩華ラーメン大、チャーハン小、キョーザ1人前を注文するつもりです。谷さんはどうされますか」
「ソシタラ、ワシハサイカラーメンダイ、チャーハンダイ、ソレカラギョーザダイ」
「ギョーザの大はないので、2人前にしましょうか」
「ホンデエエヨ。トコロデ、キョウモクラシックノハナシシテチョーダイ」
「ええ、いいですよ。それでは今日は長大な曲についてお話ししましょう」
「オペラヤッタラ楽劇『ニーベルングの指輪』全4幕、交響曲ヤッタラマーラーの交響曲第3番トチャウノン」
「そうですね、やはりオペラは演奏時間が長いです。でも『ニーベルングの指輪』は4つのオペラを繋いだものと私は考えるのでその中で一番長い「神々のたそがれ」が長いという答えならいいと思います」
「ソウナンヤ。ホカニモエンソウジカンガナガイオペラアッタネ」
「ワーグナーの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、『パルジファル』、『トリスタンとイゾルデ』、ロッシーニの『ウィリアム・テル』、ヴェルディの『ドン・カルロ』なども4時間以上かかる長大な曲です。『ニーベルングの指輪』の「ジークフリート」と「ワルキューレ」も長いです」
「交響曲ヤ管弦楽曲ハドウナンヤ。ベートーヴェンノ第9モナガイヤンネ」
「ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」はだいたい70分前後だと思いますが、マーラーの交響曲第3番はだいたい100分です。ブライアンやソラブジやロジャースと言う人が作曲した交響曲が長いと言われますが、演奏機会に恵まれない有名でない曲としか言えないので対象にならないと思います」
「バッハノ平均律クラヴィーア曲集第1番ト第2番ヲ全曲エンソウシタラ、4時間以上ニナルヤロ。ホンデ、リヒャルト・シュトラウスノ『ばらの騎士』ナンカモナガイキョクヤネ」
「そうですね、、そうだ、バッハのマタイ受難曲なんかも長いと思うんですが調べてみましょう。リヒターの1958年盤が約3時間20分、クレンペラー盤が約3時間40分で4時間はかからないですね」
「マーラーノ交響曲第3番モバッハのマタイ受難曲モ演奏時間ガナガイケドキキハジメタラアットイウマヤネ」
「そうですね、名曲の名演は演奏時間を忘れさせますね」