プチ小説「こんにちは、N先生 76」

私は今年8月にコロナ感染してその後体調がすぐれず中耳炎になったりなかなか治らない歯肉炎になりました。また8月半ばにぎっくり腰になったのですが、それまでのぎっくり腰は立ち上がる時に痛いだけでしたがこの時は全身が痛くてほとんど動けない状態で丸1日過ごしました。それから9月下旬ごろから気になり始めた頭頂部の粉瘤は保存的治療(塗り薬と抗生剤)で治そうとしましたが治らず11月17日に皮膚科クリニックで外来手術をしました。局麻をして円形のメスで穴を開けてそこから粉瘤の袋?を引っ張り出すものでしたが、術後3日間は頭が洗えず、12月8日までは殺菌、肉芽形成の外用薬をつけたガーゼを貼るという処置を続けました。手術をされた先生は、治ったのでもう絆創膏も貼らなくてよいと言われましたが。今でもカルスト台地のようにこんもりと膨れていて傷跡が目立つので、私は小さな絆創膏を張ってムスリム帽を被っています。私は30才になる前から頭頂部が薄くなり、一九分けをしてスプレーでこんもり感を出していたので、水浴びと同様に被り物は遠ざけていました。しかしながら大きな絆創膏を貼った頭をさらした状態で外出をするわけに行かず、気軽に洗えて伸び縮みして圧迫感のないムスリム帽を買うことにしたのでした。被ってみるとわたしの沢庵石にようにでかい頭にもフィットしてしかもスプレー代(1ヶ月に1本は使います)が節約できるので、3枚買って使いまわすことにしました。ベージュ、ナチュラル、オリーブの色の3色のムスリム帽を購入したのですが、四条通にある藤井大丸の前の道を東へと歩いているとブラウンのムスリム帽を被ったN先生が寺町通りに入られるのが見えました。私は先生の後ろをしばらく歩いたのですが、先生が仙太郎という和菓子屋さんに入ろうとしたので声を掛けました。
「こんにちは、先生はここをよく利用されるんですか」
「ここの最中、栗大福、おはぎそれから栗の形をした小栗というお菓子がおいしいと聞いたから、それを食べたいと思って来たんだ」
「ところでN先生、先生がムスリム帽、いや帽子を被っているのを初めて見たのですが、先生は帽子を被られることがあるんですか」
「いや、初めてだよ。君が通信販売で1650円送料無料のムスリム帽を購入したと聞いたから、ぼくも買ってみたんだ」
私はどのようにして私がムスリム帽をネットで購入したことが先生の耳に入ったのか不思議でしたが、何も言いませんでした。
「ところで君がムスリム帽を被るようになったのは、粉瘤の手術をした後の絆創膏を隠すためのようだが、君は今年コロナとかで大変だったようだね」
「そうですね、昨年7月まで勤務していた医療機関で処方してもらっていた血圧を下げるための利尿剤がなくなり今年に入って、近くの開業医が処方する利尿剤を服用するようになったのですが、その薬だと夜間トイレに行く回数が多くなり、頻尿の改善のための薬を処方してもらったのでした。この開業医ではβブロッカー、カルシウム拮抗剤も処方してもらったのですが、副作用で全身がかゆくなって困っていました。また今までになったことのない不整脈も出ました。そんな状態で頻尿の改善薬を飲み始めたのですが、1週間もしないうちに脚がむくみだして左は少しだけむくんだだけでしたが、右脚は1.3倍ほどの太さになったのでした。すぐに開業医の先生に薬を変えてほしいと言いましたが、その先生は頻尿の改善薬を止めてくれとしか言いませんでした。頻尿の改善薬の服用を止めて2週間様子を見ましたが、脚のむくみが取れず関節が思うように曲がらなかったり足がぱんぱんになったため靴ベラが折れたりしました。私はこれから先にもお世話になるのだから、これからも開業医さんを定期受診しようと考えていたのですが、隣に住んでいる母が息子の状態を見て、このままでは大変なことになると自分が通院している病院に行くようにと言ったのでした。その病院にかかって別の血圧の薬を処方してもらったところ、2、3週間で全身の掻痒感も脚のむくみもなくなったのでした。
7月中旬にほぼ健康な状態に戻って、8月には花火大会の撮影や伊吹山の天体観測会の参加を楽しみにしていたところ、8月2日にコロナを発症したのでした。コロナの症状は37.2度の発熱とのどの痛みだけでしたが、その後中耳炎、原因不明の筋肉痛、全身の痛みを伴うぎっくり腰、なかなか治らない歯肉炎そして粉瘤で手術を受けなければなりませんでした」
「そうすると君は今年は正月からずっと今まで体調が優れなかったわけだ。ところで話が変わるが、昨日、君は松本清張著『地の指』を読み終えたようだね」
「読み終えました。精神科の病院の事務長飯田勝治と都会議員で土建業者の岩村章二郎が悪行を犯し桑木刑事が同僚で若い重枝刑事と共に謎を解いていくのですが、途中で4本の縦棒に横棒が1本入るようにラーメン屋の親父大野謙太郎が入って来るところは驚きでした」
「そうだね、元は飯田、岩村兄弟、山中の悪だくみだったのが、他にもう一人加わったという感じだ。悪人と言えばたまたま山中を自分のタクシーに乗せた三上は飯田や岩村を恐喝しようとしたが、飯田が三上の企みを察知して自分のところの施設に収容して後に殺した。飯田も岩村も奸智に長け、人殺しを平気でする。実行犯は飯田だが岩村と共謀していくつかの殺人を犯した」
「飯田と岩村の犯罪の始まりは都政新聞社の元社員島田玄一を飯田が青酸加里で殺したことですが、飯田はその犯罪に引き込んだ豊田角造(林田平一)も自分の車で引き殺しています。都の病院査察日時を通告してくれた山中一郎も三上正雄と共に飯田に殺されています。三上も大野も殺人を犯まししたが、飯田のような殺人鬼ではありません。飯田はもしかすると岩村章二郎の兄(順平)をも殺害しているかもしれない。そんな飯田も最後のところで葯殺されるのですが」
「犯罪小説の影の主人公である犯人はひとりの方が読みやすい。三上や大野も殺人を犯したので、内容が複雑になり刑事がホシを上げるだけでは済まなくなった気がする」
「最後近くで桑木は三上が残したメモの解読に勤めますが、謎解きは飯田の妻がしています。またカルさんだけが問題で他の書き込みは謎解きに関係ないので、少しがっかりしました。」
「それでも700ページほどの小説を4日で読み終えたんだから、君は楽しんで読んだんだろ」
「そうですね、物足りなさはありますが、とても面白い小説でした」