プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編32」

福居は居酒屋には長い間入っていないが、家の近くにある八剣伝高槻栄町店にはよく行く。店頭売りの焼き鳥(100円やきとり)を買うためだ。1本100円の名物焼き鳥を3本頼んで後の3本をつくねにするかトロぼんじりにするか若どりにするかかわにするか迷っているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ぼくはひとりで居酒屋に入ることがない、複数でもほとんどないのですが、ので、ここの店頭で売る焼き鳥しか食べたことがないんです。炭火焼ですしタレも美味しいですし値段も手ごろなのでよく利用しますが、他にどんなつまみがあるのかな」
「ソウカ、ソレヤッタラ、アンタ、ドウセイチドモクリスマスカイトカボウネンカイシテヘンネヤロ。イマカラ、ワシトボウネンカイヲヤランカ」
「でもぼくは焼き鳥を買うための千円しか持って来ていません。谷さんはお持ちなんですか」
「ウン、モッテルヨ、チカテツコウジデカセイデルンヤガ、キノウキュウリョウモロタカラネ。コレカラスウジツハリッチニクラセルンヨ」
「でも最近はおつまみも高いんじゃないですか。谷さんにご迷惑がかかるんと違いますか。いくらお持ちなんですか」
「アンシンシテ、マンサツガサンマイアルカラ」
「それじゃあ、お相伴させていただきます。今日もクラシック音楽の話をしたらいいですか」
「アトデソレモキキタイケド、コウイウトコロニハイッタンヤカラ、マズハキンキョウホウコクヲシテホシイネ」
「昨年の7月に仕事を辞めてから、大学の図書館に通って小説を読んだり、懸賞に応募する小説を書いています。仕事をしていた時と同じ生活を続けたいと思っていたのですが、勤めていた医療機関をやめて近くの開業医で別の薬(同じ薬は出せないと言われました)を服用するようになった昨年の年末辺りから薬の副作用が顕著になったのです。全身掻痒感(とにかく全身に発疹が出ました)、頻回の排尿に悩まされました。5時間30分位は取れていた睡眠時間も4時間くらいになりました。薬を変えてほしいと先生に頼みましたが、何も返事がなく薬を変えてもらえませんでした。それでも毎夜5回のトイレはしんどいと訴えたところ、ベタニスという頻尿の治療薬を処方して下さいました。この薬が状況を悪化させました。トイレの回数は変わらず、下肢に水が溜まり出したのです。これから言うことはたまたまぼくの身体がそう反応しただけだと思うのですが、両下肢が水ぶくれになり特に右側は普段の1.3倍くらいの太さになりました。靴が入らず無理にこじ入れた靴ベラが折れてしまうくらい脚と靴がぴったりでした。右ひざと足首がむくみで自由に動かせず、でもこれからずっとかからないといけない先生だからと受診して相談したところ、ベタニスを止めてくださいと言っただけで後は何も言われませんでした。ぼくは、これからもずっとお世話になる先生だから関係を大切にしないといけないと思いベタニスをやめただけでしたが、隣に住んでいる母親が水ぶくれが顕著な両足を見て、すぐに私がかかっている病院を受診しなさいと言いました。これがうまく行って、全身掻痒感、両足の水ぶくれは2週間でなくなりました。頻尿は今飲んでいる薬(20日前から服用しています)を飲むようになるまで続きましたが、体調は改善傾向となりました。ところが1月から7ヶ月ほど最低の体調が続いていて感染症に対する抵抗力が弱っていたのか、マスク、手洗いをしっかりしていたのに8月2日にコロナにかかってしまいました」
「ソコマデヒドカッタラ、オチコンダントチャウン」
「コロナの症状がそれほど酷くなく、2週間ほどで落ち着きました。咳は1ヶ月ほど続きましたが治りました。でも抵抗力が落ちたのかその後、中耳炎、歯肉炎、ぎっくり腰後の全身痛、それから頭の天辺の粉瘤」
「フンリュウッテナンヤ」
「毛穴から黴菌が入り皮下にゴムの袋のようなものが出来るのです、粉瘤を取り除かないと切開排膿してもすぐに膿が溜まります。11月17日にクリニックで手術して取ってもらったのですが完全に治るまで1ヶ月かかりました。いろいろあったんでずっと続けて来た筋トレができなくなり筋力が回復するまで時間がかかりました」
「ホタラ、ヨウヤクフダンノセイカツガデキルヨウニナッタンヤネ。ヨカッタネ」
「そうですね、来年からは頑張って行けそうですが、今年一年不意にしてしまった気がします」
「エエコトハナカッタン」
「以前から母校の天文研究会に寄贈しようと考えていた天体望遠鏡を寄贈したのですが、修理しないといけないところだらけでどうなるか不安です。修理不能とか修理費用が30万円以上になったらどうしようかと思うのです。26年間押し入れに入れてあったのを寄贈しようと考えたのがいけなかったのかもしれません。大学の事務局の女性や天文研究会部員は快く対応してくれて年内に無事引き渡しをしたかったのですがそうはいかなかったのです」
「ミトウシハイツツクノ」
「3ヶ月はかかると思います。担当してくれている部員さんが2回生なので、就職活動に影響がないようにと願っているんです」
「リョコウトカイカンカッタノ」
「毎年、丸一日か一泊二日で秋の小旅行を楽しむのですが、今年は体調が悪くて奈良(南山城)の浄瑠璃寺で九体阿弥陀仏を拝観したくらいです」
「ホタラ、アンタカネアマットルントチャウン」
「まさか、給料をもらっていないのですから、毎日が火の車です。旅行しようにもお金がありません。今は3ヶ月に一度のLPレコードコンサート開催と大学図書館で小説を読んだり書いたりするのだけが楽しみです」
「アンタハユウワクニヨワイヨウヤカラ、ビンボウデキリツメタセイカツノホウガエエノカモシレヘンネ」
「でも、ぼくの場合本に触発されてより実体験からネタを考えるので、何もしないどこにも行かないでは何も浮かばないかもしれません。健康も回復したので来年は泊りがけで出掛けたいですね」
「マア、ガンバッタラエエコトガアルントチャウ。ホンデ、キョウハナニヲハナシテクレルノ」
「それじゃあ、今日は元気づけてくれるクラシックの名曲というのはどうでしょう」
「ワーグナーノ「タンホイザー」ジョキョクトカカ」
「それもいいですね。今から言うのはぼくが勝手に選んだものですが、前かがみで猫背になっていたのがやがて背筋が伸びて腕を突き出して前進したくなる曲です。来年はこういう曲に乗って風を切って堂々と歩みたいと考えています」
「アンタハオダテニノリヤスイイチビリナオッサンヤカラソウイウキョクガムイテルカモシレヘンネ」
「では、まずはリストの「レ・プレリュード(前奏曲)」これはフルトヴェングラーの演奏で聞きたいですね。次はミュンシュ指揮パリ管弦楽団のブラームス交響曲第1番、3番目がストコフスキー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のチャイコフスキー交響曲第5番ですね」
「コウキョウキョクハナガイカラミジカメノンガエエントチャウ」
「短めだと管弦楽曲ですが、シベリウスの「フィンランディア」これは国威発揚のために作られた曲ですから握り拳をあげたくなるのですが。ベートーヴェンの「エグモント」序曲、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲、ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲、チャイコフスキーのスラブ行進曲なんかも勇気づけられる曲ですね」
「ミジカイ、ショウヘンセイノキョクヤッタラドンナンガアルカナ」
「ヨハン・シュトラウス1世のラデツキー行進曲は短い曲で盛り上がります。小編成の弦楽や管楽の曲よりピアノ独奏の方が盛り上がりがあると思います。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」、同第32番は最後に盛り上がります。これはオルガンの曲ですがバッハのトッカータとフーガニ短調も最後は盛り上がります」
「ロマンハノピアノキョクニモアルヤロ」
「ショパンのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズとバラード第1番は映画「戦場のピアニスト」で輝いていました。ブラームスのワルツ第15番は短いですが元気が出る曲です。ブラームスと言えば、ドイツ・レクイエムの最初の楽章は「ナニヲクヨクヨシテマンネン」といつも励ましてくれるので、落ち込んでいる人に勧めてあげたい曲ですね」
「アンタガイウトオリヤワ。クラシックハソウシタイヤシガアルカラ、ワシハスキヤネン」
「そうですね、またそんな曲が見つかると嬉しいのですが」