プチ小説「青春の光 112」

「やあ、田中君、久しぶりだね。元気かい」
「は、橋本さん、ご無沙汰しています。でも、こんなふうにのんびりしていていいのかなと思います」
「今年の場合、正月だからのんびり過ごそうと言えない気がする」
「そうですね、今日は1月3日ですが、1月1日には石川県が震源地のマグニチュード7.6の大地震が起きています。白山市に親戚がある船場さんも気がかりでしょう。それから1月2日にはその被災地に救援物資を輸送する予定だった海上保安庁の飛行機が日航機と衝突して大事故が起きています。いずれも日没前後で今年は夕方に何かが起こるんじゃないかと不安を訴えている人がぼくの近親にいます。いつもならのんびりと正月のテレビ番組を見ながらお酒を飲んで英気を養うところが、事故が続いて落ち着いていられなくなり遠方に出掛けた人は無事に帰宅して平常の生活に戻られるか心配しておられるのではないでしょうか」
「今日はふるさとから東京に帰られる人も多いからね。欠航便も多いようだから、心配されていることだろう。でもそれより震災に遭われた方はもっと気の毒だ。船場君も大阪府北部の地震で震度6弱を体験していて、会社帰ると自宅の中がぐちゃぐちゃになっていた。それからテレビのアンテナが倒れて復旧まで1ヶ月かかったようだ。船場君のお母さんが隣に住んでいるのだが、そちらは屋根瓦が割れてスレート葺きに変えたから200万円ほどかかったようだ。当時、船場君は働いていたから、帰宅してからと休日に少しずつ元に戻していったようだが、今でも家が歪んでいるところがあって壁紙が剥がれたままで生々しいらしい」
「6弱で築30年ほどの船場さんの家にも被害が出るんですから、7となると木造家屋だと大きな被害になると思います。火災が被害をさらに大きくしました。船場さんの白山市の親戚も津波被害の恐れがあったのですぐに別の親戚の家に避難しましたが、船場さんは早く元の生活に戻れるように願っていると言われていました」
「そうだね、船場君の親戚だけじゃなく、1月3日の大地震に遭われた人たちが少しでも早く日常を回復できるよう祈りたいね。話は変わるが、船場君は昨年、近医で処方された薬が合わず薬疹、下肢のむくみなどに苦しめられ別の病院にかかって落ち着いたと思ったら、コロナを発症し免疫力が低下したみたいで全身の筋肉痛、中耳炎、歯肉炎、粉瘤などに苦しめられたようだ。コロナ後安静が必要になって筋トレが全然できなくなって、今もぼってりした体型をしている」
「そうですね、食べないことには体力は回復しないですが、食べてばかりだと太るばかりです。船場さんはもうちょっとで90キロになってしまうところだったと言われていました」
「船場君は以前山登りをしていたようだがやめたのかな」
「山の遭難のニュースを聞いたお母さんが、もう山登りは一切しないでくれと言われていた時があってそれから比良山系の登山はやめられました。でも、一昨年の6月には伊吹山に登られたようです。でもこの時に感じた脚力の衰えによって船場さんは山登りはやめた方がいいかなと思われたようです。その代わりに遭難する恐れのないジョギングで身体を鍛えようと考えられているようです。どちらにせよ、船場さんが中心となってお母さんの介護をしないといけないわけですから、船場さんが倒れるとお母さんは心配されるし弟さん妹さんの負担が大きくなりますから、船場さんは健康に留意して身体を鍛えていつまでもお母さんを見てあげないとと思います」
「そうだね、お母さんは一昨年の12月11日に大腸穿孔で緊急手術を受けて今は人工肛門だが、施設に入所することなく自分の身の回りのことをして週に1度の訪問看護、週に2回のデイサービスで頑張っているが、3つの病院にかかっていて付き添いは主に船場君がしている。船場君がいなくなるとお母さんは困られることだろう」
「そうです、そんなふうにしてお母さんを見守りながら小説を書いているのですから、お母さんは長生きされていつか船場さんの小説が日の目を見るといいですね」
「わしもそう願っているんだ」