プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編33」

福居は毎年正月2日にクラリネットの初吹き(そんな言葉があったか怪しいが)をするためにグランドフロント大阪にある島村楽器のスタジオを借りるのだが、今年は正月1日に能登地方を震源とするマグニチュード7.6の大地震があり親族が被災したので延期した。その後連絡があって、自宅は大きな損害はなかった。能登中島にある実家は屋根瓦の破損などがありブルーシートをを掛けていて水道が止まっているが、今のところ他に大きな損害は見られないとのことだった。それで本日(1月5日)に島村楽器大阪店のスタジオを3時間利用して初吹きをした。スタジオを出て受付で、終わりましたと言うとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ここは楽器屋さんなんで食べるものはありません。三番街の祭太鼓で変わりカツ丼でも食べましょうか」
「ソレガエエントチャウ。ツクマデナンカオモロイハナシヲシテホシイワ」
「そうですか、正月ですからクラシック音楽の話はお休みにして再生装置についてお話ししましょう」
「ウンウン、レコードガエエカ、CDガエエカトイウコトヤネ」
「まあそうですが、音自体は自然な形で音を抽出するレコードに対してCDはある周波数の範囲で録音装置に入れたものをなるべく広い音域で再生するのですから比較にはなりません。レコードが断然優れています」
「ホシタラ、CDサンノメリットハナイノカナ」
「電気信号に変えることで色々なもので再生が可能になりました。レコードも音質が落ちますがテープに録るという方法がありましたが、CDはCDプレーヤー、コンピューターで再生するだけでなく音質をほとんど落とすことなくMD、CDR、ハードディスク、携帯プレーヤー、携帯電話にコピーしての再生が可能になりました」
「ソレハイロイロナキキカタガデキルヨウニナッタカラケッコウナコトトチャウンカ」
「両刀使いが出来たら良かったのですが二者択一をしないといけなくなり、これからの市場を考えるとCDの方がより利益が上がると考えられてCD(デジタル音源)に切り替わりレコード(アナログ音源)は廃れていきました。ある日、よく行っていたレコード屋さんのレコード棚や餌箱(レコードを陳列する箱)がなくなってCD棚にぎっしりと新品の製造されたばかりのCDが並んでいたのをよく覚えています。そうしてそういう昔からあった町のレコード屋さんはタワーレコード、HMVストアとの闘いに破れたのでした。阪急32番街のDAIGA、堂島のワルツ堂もCDショップへと姿を変えてしばらくは奮闘していましたが、品数が多くて欲しいものがすぐに買えるタワーレコードが心斎橋(アメリカ村)、大阪、京都などにできるともはや対抗できなくなりました。私もアメリカ村のタワーレコードにはジャズのCDをよく買いに行きました」
「クラシックノCDトチャウンカ」
「私もあるコンサートで隣の席になった人から、これからはCDの時代だからレコードと再生装置は早く処分した方がよい。自分の周りの人でレコードプレーヤーを持っている人はいないと言われてパイオニアの8万円ほどのCDプレーヤーを購入しましたが、オーケストラ、小編成の管弦楽、独奏のいずれも籠ったような不自然な音で好きになれませんでした。とくにヴァイオリンの音はCDに録音できない高域低域の音がありCDには入っておらず、元々再生できないので最悪でした。それでもピアノや管楽器の音は余り問題ないと考えピアノや管楽器のCDを購入して聞くことにしました。私は30才になってからジャズを聴き始めていて、1990年頃はOJC(original jazz classic)やBLUE NOTEが信じられないくらいたくさんの復刻盤をCDで販売していたので、週末にはタワーレコードに行ってジャズのCDを買い漁ったものでした」
「ゴクロウサンナコトヤネ」
「ある程度の音でジャズの名盤を手軽に聞けたことは良かったと思うんですよ。でも1994年にレコードマップが発売されて中古レコード店があちこちにあることがわかって購入するようになりクラシックの外国盤の音の良さに目覚めると、ジャズのCDを購入するのをやめて京都、神戸、大阪の中古レコード店で中古の外国盤(アナログレコード)漁りを始めたのでした。その頃には再生装置もラックスマンのプリメインアンプL570、ヤマハのアナログプレーヤーGT-2000、オンキョーの大型スピーカーMONITOR2001、オルトフォンのMCカートリッジSPUクラシックGを少しずつ購入して行き万全の体制が整っていたのでした。購入したアナログのプレミアム盤を週末じっくりと鑑賞するという日々が20年余り続きましたが、定年になり金銭的余裕がなくなったっため年に1回取り替えていたオルトフォンのカートリッジの交換を止めて、安い2万円台のMMカートリッジでアナログレコードを聞くことにしました」
「マア、ビンボウニナッタンヤカラッシャーナイワナ」
「それで多少の音質が落ちることは覚悟していたのですが、それだけでなく針飛びばかりで、音質が信じられないほど悪くて聞くに堪えない音になってしまいました」
「タエラレナイ?ドンナオトナン」
「簡単に言うと美しい心地よい音が、馴染みのない気持ちの悪い音になってしまいました。それでアナログレコード再生を諦めて当時ハイレゾCDが宣伝されていたので、高品質のCD(ハイレゾCD)の再生も可能な高級CDプレーヤー(デノンAL32)を購入してクラシックやジャズを聞いてみましたが相変わらず狭い音域の音であるばかりか、しばしば音飛びをしました。それで1ヶ月ほどアナログもCDも聞くのをやめました」
「オンガクチュウドクノアンタニソレガデキタンヤネ」
「でも1ヶ月が限界でした。なんとか解決できないかと、とりあえずヨドバシカメラ梅田店のオーディオコーナーに行くことにしました。最初はお金もないのにスピーカーをタンノイの中級機種(それでも40万円位します)を購入するつもりでスピーカーのコーナーに行ったのですが、そこを担当する田中さんと言う人が、自分も音に不安があったが、ケンブリッジオーディオのフォノイコライザーを取り付けて聞くようになると音質が改善したのであなたも試してみたらと言われたのでした。2万2千円でMMカートリッジよりも安価だったのですぐに購入して帰りました」
「ホンデ、ドウナッタン」
「それが驚くべき効果を発揮して、オルトフォンで聞いていた時と同じくらいの音で聞けるようになったのでした」
「ソノフォノイコライザーヲトリツケタダケデエエオトニナッタンカ」
「以前からレコード盤の汚れが気になっていたので、タオルを湯につけて絞ってから盤面を丁寧に拭くことを始めました。手垢だけでなくスプレーを拭きつけたりシールのようなものを貼り付けたりする人があるのでそれが盤面に残っていて針飛びの原因になることがあるからです」
「マアソノクライデイゼントオナジヨウニキケルヨウニナッタンヤッタラ、イウコトナイントチャウ」
「その通りで、田中さんにまたお会い出来たらお礼を言おうとヨドバシカメラ梅田店に行ったのですが、お会いできませんでした。2年くらい前のことですし、社員ではなかったので今どうされているかわかりませんでした」
「デモキキハダッスルコトガデキタ、トコウイウワケヤネ」
「そうですね、オルトフォンのカートリッジでアナログレコードを聞いていた時と同じように毎日楽しくアナログレコードを聞いています」
「ドコデアナログレコードヲカウンヤ」
「最初に行ったのは京都のラ・ヴォーチェでした。それから神戸のらるご、大阪のスマイルレコードにも毎月通いました。最近は安くていいものが買えるので新宿のディスクユニオンです。千円前後で外国盤の名盤も手に入りますし、資金がない私は1枚1万円もするプレミアム盤はもう買えなくなりました」
「イママデエエレコードヲコウニュウシタンヤカラ、ソレデジュウブンヤロ。ソレヲヒトニキカセテルンヤロ」
「ええ、年4回東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンでLPレコードコンサートを開催しています。よろしかったら、谷さんも聞きに来てください。選りすぐりの名盤をヴィオロンのすばらしい装置で聞いていただけますので」
「ワシモアナログレコードノエエオトヲキイテモラウノハサンセイヤワ。バンショウクリアワセノウエゴサンカクダサイネ」