プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 天体望遠鏡の寄贈はうまくいったん編」

わしは幼少の頃からさらっぴんの服しか着んかったから、高校生になってからさらの本やレコードを買うたもんやった。学生時代の友人で古着ばっかり着とったのがおったけど、わしは人が着たもんはクリーニングをしても前の人の体臭が染みついているようで未だによう着ん。そやけど船場の影響を受けて、古本、中古アナログレコード、アンティークなんかには興味を持つようになった。ただしアンティークはお金がかかるからほとんど買うとらん。専らウインドーショッピングや。そやけど最近はアマゾンや日本の古本屋やなんかで信じられんくらい安くで古本が入手できるようになった。特に松本清張氏をはじめとする大手出版社の文庫本は定価の3割くらいの値段で購入できることがざらにある。ほんで船場は松本氏の文庫本をようけ買うて、もっとはよ気い付いたら良かったなぁと言うとる。アナログレコードは一時CDの勢いに押されて姿を消したかに思えたけど、その音の良さ(CDの音の悪さ)に気付いてぼちぼち復活の兆しがある。そう言うてもアナログレコードの全盛時代(1960から80年代)を知っとる人は今50才以上やからその人らがレコードを聞けんようになったらレコード文化は消滅するんやないかとわしは危惧するんや。船場は100才まで生きてアナログレコードを大事にするんやろけど、不要になったレコードの行き先が気になるところや。そやから10から20代の若い人がレコードのええ音に興味を持ってアナログレコードをジャケ買いするだけやなく、音のいいステレオ装置(アンプ、アナログレコードプレーヤー、スピーカー)を購入して広がりのある音が聞ける環境を整備してもらわんとあかん。スピーカー付のアナログプレーヤーで再生するだけではポップスやイージーリスニングを聞こうというところまでは行くやろけど、クラシックやジャズをくつろいで聞こうという気にはならへんと思うんや。生まれた時から、ちいこいアイポッドに録音したやつを極小ヘッドホンで聞いていた人が大人になってタンノイのエジンバラに対峙してレコードの音を聞くようにはならへんと思うんや。その過程には1960から70年代によく一般家庭にあったステレオというやつか一昔前に販売しとったコロンビアのおとぎばこのような再生装置でアナログレコードを聞くことが絶対に必要やと思うんやけど、船場はどない思っとるんやろ。ちょっと訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、にいさん、私もレコード文化を消滅させないためにはこのままではいかんとは思うんです。でも廃れてしまった文化はなかなか復活は難しいように思います。せいぜい現状維持がやっとでしょう。一つの興味深い文化が芽生えてそれに必要な機器を企業が競っていいものを作って行く、ステレオ装置にとってのその時期が1960年代と1970年代やったと思います。しかし1980年代になってからCD、デジタル録音が主流になり、まずアナログプレーヤーが消えて行きました。そうして携帯型のプレーヤーで音楽を聞くのが主流になり、アンプやスピーカーも必要でなくなりました。こうして徐々にステレオ装置で音楽を聞くことがなくなり、応接間に大きなスピーカーとステレオ装置が置かれてあるという家は60代以上が世帯主のわずかな家だけがアナログレコードのよい音を楽しんでいるという状況になりました。そうやな、最近はゲームしたりアウトドアに行ったりする人がほとんどやわな。そうです、だから私個人の感想ですが、好きになれないCDの音を聴いて休日を過ごすより、他のことをした方が楽しいということになりステレオで音楽を聞くという文化は先細って行くしかありません。いまさらアナログレコードの復活は無理でしょうし、ステレオで音楽を聞くことの素晴らしさを若い人に訴えてもその良さが理解してもらえず無駄な抵抗になると思います。一部の好事家が大事にレコードを聞くでしょうが、その人たちがいなくなったらもしかしたら消滅してしまうかもしれません。つまりCDで音楽を聞くという文化が残ります。モーツァルトの時代に流行していた九柱戯(ケーゲル・シュタット)はボーリングの先祖のようなものですが、今はする人はいません。これと同じように50年ほど先には、アナログレコードをステレオで聞くという楽しみが20世紀には流行したようだが、今はそんな嵩張るめんどくさいものは流行らないよねと言われるような気がします。でも細々とでもいいから好きな文化が少しでも長く生きて人々を楽しませてほしいから、私はLPレコードコンサートを開催しているのですが、なかなか来場してもらえないので困っています。この前は東京マラソンと同じ日だったので、来場者が少なくて困りました。カラヤンの特集をするとけっこう来ていただけるんですが、他だと余り来ていただけないのでプログラムの作成も難しいです。素晴らしいオーディオ装置で私が選曲した素晴らしいクラシック音楽をと言っても興味を持ってもらえません。そういうのを聞くとわしは1960から80年代に栄えたクラシック音楽の文化が危機にあるのか、昔のような状態に戻ってしまうのかといらないことを考えてしまうんやが、大丈夫なんやろか。それは今10から20代の人がアナログレコード、ステレオで音楽を聞くことはCD(というよりファイル化した音楽)をコンパクトなプレーヤーで聞くことと全然別物で素晴らしい文化でありそういう装置で聞くクラシック音楽が格別であることを認識してもらうことですが、先にも言ったように小さい頃からアイポッド(携帯用音楽プレーヤー)を小さなヘッドホンで聞くのに慣れている人が興味をもつかどうかです。私は極めて困難な状況にあるとしか言えません。私は今から26年前に購入した天体望遠鏡を母校立命館大学の天文研究会に寄贈して、2月28日には動作確認が済み後輩たちにささやかなプレゼントが出来たわけですが、受ける側の学生が積極的に動いてくれなかったら、うまく行かなかったかもしれません。天文研究会の2人の部員さんがよく動いてくれたことには感謝したいと思います。そうして長く天体望遠鏡を使ってもらい、天体望遠鏡で天体観測をする楽しさを広めてもらえたらと願います。そうして天体望遠鏡の寄贈が無事終わった今、私はアナログレコードでクラシック音楽を聞く楽しさを知ってもらうためにこれからもLPレコードコンサートを開催したいと思いますが、観客の方が少なくなれば名曲喫茶ヴィオロンの営業を逼迫させることになりますから、LPレコードコンサートの開催を継続することが難しくなります。どうかご来場の程、よろしくお願いします。