プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編38」

福居は2022年7月末に37年余り勤めた医療機関を辞めて、本を読んだり小説を書いたりするために母校立命館大学の図書館に通うようになった。最初は阪急西院駅から歩いて(片道約50分)大学まで行き帰りもそうしていたが、自宅から駅までの歩行も合わせると2時間半余りとなるので大学への行き帰りはバスにすればもう少し時間が有効に使えるのではないかと考えた。そうして2023年4月からは、今までと同じ時刻(午前7時)に自宅の最寄りの阪急電車の駅で電車に乗り烏丸駅で下車してホリーズカフェ錦小路烏丸店でコーヒーLサイズを飲んでから55番の市バスに乗って大学に行くようになった。いつものように立命館大学前で下車しファミリーマート立命館大学前店で水と緑茶のペットボトルを買い図書館前まで行くと、まだ開館前だったがM29800星雲からやって来た宇宙人が入口に居て中の様子を見ていた。
「谷さん、朝早くから来ていただいたようですが、この大学図書館は在校生、教職員とOB(卒業生)しか利用できないんです」
「ソレハシットルケド、キッサテンハガイブノヒトデモツカエルノトチャウン。アンタモリヨウシタコトアルヤロ」
「図書館の入口のようなゲートがないので、多分大丈夫でしょう。以前スパゲッティというともっちゃりした言い方になりますね、パスタを何度か食べたことがあります」
「ホタラ、ワシモソレデイクワ」
「では、入りましょう」
福居がホットをM29800星雲からやって来た宇宙人がミートソースのパスタを頼むと宇宙人が福居に尋ねた。
「アサノハヨウカラウチヲデテ、トオクハナレタトショカンマデヤッテキトルケド、オカネガナイネンカラウチデショウセツカイトッタラエエントチャウン」
「お金がないのは確かですが、このように大学図書館まで来て小説を書くのはワケがあるんです」
「キソクタダシイセイカツヲシタイカラヤロ」
「そうです、他にもいいことだらけです。電車内で本を読むと捗ります。昼食の選択肢も広がります。37年間通勤を続けて来たので、通勤の時の移動がなく家に籠って一日中小説を書くのは無理だと思いました。でも懸賞小説に応募して賞を取って原稿の依頼があったら、移動している時間も惜しくなって家に籠って書くしかなくなるでしょう。それでもクラリネットのレッスンは続けたいと思っています」
「LPレコードコンサートハドウスルンヤ」
「今のところ土日は世間一般と同じで休んでいます。だから日曜日に開催するLPレコードコンサートに影響はありませんが、万一土日の休みも返上して原稿を書くようになったら、回数が減るかもしれません」
「ソレハユメミタイナハナシヤネ」
「でも私ももうすぐ介護保険対象の年齢に達します(この前介護保険証が届きました)。私は人生でこれといった実績がないので、実のある事をしておきたいのです。そのためにはまず何かの賞を取らなければなりません。今のところ3年続けて6月に応募が締め切りになる懸賞小説に応募しましたが、落選しています。1年一回と呑気にこれを続けるかいろいろな懸賞小説に応募するかですが、湧き出る泉のように面白いストーリーが浮かぶわけではなく、楽しい会話を繋ぎ合わせて作るのが私のやり方ですからせいぜい2本並行して書くくらいでしょう。3月末締め切りの懸賞小説にも一度応募してみたいのですが、2つのストーリーを考え出して並行して物語を進めて行くのは困難が伴いますしどっちかわからなくなる恐れがあるので避けたいところです。一つが完成してからもう一つに取り掛かる方が安全だと思います」
「シメキリガアルワケヤナイカラオットリカマエトルンヤロケド、ソンナヤリカタデウマクイクンカナ」
「退路を断つとかして追い詰められた状況で小説を書くとうまく行く場合もあるようですから小説を書くことに没頭すればいいのでしょうが、高齢の母親の世話をしなければなりませんし家事をしてくれる人もいませんから、大学図書館に朝一から夜遅くまでいてしかも平日すべてそうするというのは無理だと思います。長時間拘束されると何かがはじけて生まれるのかもしれませんが、何もできずに終わるということもあります。なので限られた時間をできるだけ有効に使おうとだけ考えています」
「ソウナンヤネ、ワシトシテハアンタガセンコウハナビノヨウニチョビットダケカガヤイテホシカッタンヤケド、アンタガソンナカンガエカタヤッタラムリヤロネ」
「そうかもしれませんが、今のところは毎日の生活を変える気はありません」
「ワカッタ、ホタラ、イツモノヨウニクラシックオンガクノオモシロイハナシヲシテチョウダイ」
「生活が困窮していた作曲家として思い浮かぶのは、シューベルトで、映画「未完成交響楽」でも歌曲をたくさん作っても生活は良くならないと嘆いています。そうして学校の先生をやめて貴族の娘の音楽教師になるのですが...悲劇的な結末となってしまいます。シューベルトの音楽にはそんな悲しみが宿っていて心が動かされるのです。それを強く感じさせる曲をいくつか上げてみましょう」
「ピアノ・ソナタダイ21バン、ゲンガクゴジュウソウキョクソレトカキョクシュウ「ハクチョウノウタ」ノホカニナニカアルンカ」
「歌曲集「美しき水車小屋の娘」の後半はそういう曲がたくさんあります。歌曲集「冬の旅」はそんな曲ばかりと言えます。弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」、さすらい人幻想曲、アルペジョーネ・ソナタそれから大編成の曲では交響曲第8番(第7番)「未完成」がそのようなイメージの曲です」
「キイテイテツラクナルノハカラダニエエコトナイントチャウノン」
「辛いだけの曲もあるのですが、大抵はその後に明るい陽が射して来るんです。だから最初は辛くても聴いてみようということになるんです。そういう風に考えると明るいだけの曲は感動が伴わないと考えられます」
「ソウナンヤネ。デモヒトノニーズハソレゾレチャウカラアカルイショカノヒザシノヨウナキョクモエエヨ」
「ウィンナ・ワルツの多くがそういう曲ですが、ねくらの私には合わないんです」
「ソラソウヤロネ」