プチ小説「たこちゃんの愛読書」

ブック リブロ ブッフ というのは本のことだけどぼくは浪人時代から今までたくさんの長編小説を読んで来たんだ。ぼくは文庫本、単行本、ハードカバーが2冊(400ページ)以上になる小説を長編小説と認識している。30ページまでなら短編小説、100ページまでなら中編小説と思っている。では100ページから350ページくらいの小説はどないなるねんとねじ込まれそうだけど、それは(普通の量の)小説ということになる。本屋さんの書棚でよく見掛けるのがこの厚さの文庫本で、小説を書くとするとこのくらいの量を想定すると思う。でもぼくが好きなのは長編小説で、長編にすることで登場人物の性格が細かく描かれるし物語の内容も深くなると考えている。一番最初に読んだ長編小説は何だったか今考えてみると、浪人時代に読んだディケンズの小説じゃなかったかなと思う。『大いなる遺産』『二都物語』『デイヴィッド・コパフィールド』『オリヴァ・トゥイスト』のどれかだと思うけどはっきり覚えていない。大学に入るとモームの『人間の絆』、ディケンズの『ピクウィック・クラブ』、オースチンの『高慢と偏見』、フィールディングの『トム・ジョウンズ』のようなイギリス文学だけではなくて他の国の小説にも興味を持ったんだった。セルバンテスの『ドン・キホーテ』、デュ・ガールの『チボー家の人々』も読んでみたが、映画やゲームやDVDに興味の対象が移ってあまり本を読まなくなった。それでも40代に入ると再び長編小説を読みたいという気持ちが出て来た。その火付け役が知り合いの内科の先生で、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』が面白いから一度読んでみたらと言われた。理解度は低かったが、スケールが大きい復讐劇を楽しく読み終えるとアレクサンドル・デュマの別の小説が読みたくなった。神田の古書街の小宮山書店に行くと講談社の『ダルタニャン物語』全11巻が安価で売られていてすぐに購入したんだ。モリエールの戯曲を訳している鈴木力衛氏が翻訳していてわくわくしながら読んだ。アレクサンドル・デュマは他にもいくつか読んだけどこの2つが抜きんでていると思う。フランス文学ではプルーストの『失われた時を求めて』を読んだが、巻が進むに連れて未完成の箇所が多くなり、最初は面白かったが後に行くに連れてこの小説は完成した小説なのかと疑問を持つようになった。他にバルザックの『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』を読んだが、登場人物が豹変するところについて行けず他の小説は読まなかった。ロシア文学はトルストイ『復活』『戦争と平和』から始まってドストエフスキーの主なもの(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『虐げられた人々』など)は読んだが、余りに日本人と生活環境(貴族か貧民)が違うのでついて行けなかった。最近、2つのドイツ文学の大作を読んだ。ケラーの『緑のハインリヒ』とヘッセの『ガラス玉演戯』だがハインリヒの自由で気ままな生き方の方がクネヒトのガラス玉演戯名人になることを義務付けられたわき目を振らずに突き進む生き方よりも人間らしくていいのかなと思った。どちらの小説も教養小説のカテゴリーに入り、その大元はゲーテの『ウィリアム・マイステルの修業時代』だと思うが、ぼくは安易な行動をする尻の軽いウィリアムが好きになれなかった。今、合間合間に『千一夜物語』(三)を読んでいて、今のところ(一)(二)(五)を読み終えているが、全13巻を読み終えるのはいつになるのだろう。ディケンズの愛好家団体ディケンズ・フェロウシップの会員なのでこれからもディケンズを読み続けるだろう。『大いなる遺産』(山西英一訳)『デイヴィッド・コパフィールド』(中野好夫訳)は3回、『大いなる遺産』(日高八郎訳)『二都物語』(中野好夫訳)『オリヴァ・トゥイスト』(小池滋訳)『リトル・ドリット』(小池滋訳)『荒涼館』(青木雄造、小池滋訳)は2回読んでいるが、また読みたくなったら読み返す(通読する)だろう。最近阪急相川駅で下車することがなかったが今日は久しぶりに下車した。スキンヘッドのタクシー運転手鼻田さんは強い光を放出しているのだろうか。「おお」「ブエノスディアス」「こんにちは、ご無沙汰していますが、ますます輝きが増したような気がします」「そうやでー、耳の後ろに電池ボックスをつけて額の真ん中で豆電球がぴかっと光るようにしてん。ここのスイッチで付けたり消したりするんよ」「うーん、面白いアイデアですが、鼻田さんが考えたのですか」「そう、最近はお客さんが少なくなってしもうたからな。最近は駅でスポーツ紙が買われへんから、こんなことでもせんともたんねん」「新聞なら、コンビニで買えるんじゃないですか」「そう、スポーツ紙を置いているコンビニもあるけど、五紙だけのところが多い。そんなことより、船場はんは長編小説のマニアなんやろ。わしらにも面白い翻訳ものの長編小説あったら、教えてほしいねんけど、どないでっか」「それにぴったりの小説があります。たまたま今日3巻とも持っているので、見ていただきまよう。18世紀の小説家ロレンス・スターンが書いた『トリストラム・シャンディ』という小説です。ちょっとページをめくって中味を見てください」「マーブルペーパー、真っ黒なページ、ページを貫く矢印。すごいことしはるなぁ」「小説の内容も掴みどころなく最後までそんな感じです。最初の衝撃ほど小説の内容は面白くないのですが、小説は活字だけという思い込みを打ち壊した小説と言えます。ロレンス・スターンは意識の流れの小説の元祖とも言われています」「そやけど、活字が多いしわしには手強いわ。他にはええのないんか」「多分、鼻田さんも日本の作家の歴史小説を読まれると思います。『ダルタニャン物語』全11巻はどうですか」「11巻ちゅーて、1巻何ページあるのかな」「500~600ページだったと思います」「そ、それはちょっと困るから、もうちょっと携帯に便利なのないのかな」「そうでした、さっきの『トリストラム・シャンディ』のハードカバー版がありますが、リチャードソンの『パミラ』も一緒になっていてお得です」「何ページあるのん」「710ページです」「それやったら、携帯は無理やけど、枕には丁度ええわ。今晩から使うから貸してもらおかな」