プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 41」
福居は37年余り勤めた医療機関を退職をしてから母校立命館大学の図書館通いをしているが、4月に入って新入生が入ると図書館が賑わうので楽しい気分になる。
<ぼくも今から43年前に入学して図書館を利用するようになった。今の図書館は2016年4月から開館したもので、ぼくが通学していた時は前の図書館だった。同じ3階建てだけど今と随分違う。当時は6人掛けのテーブルに同じ椅子だったけど、今は閲覧のための机椅子が色々あって楽しい。気分転換になるし、リクライニングのある高級感のある椅子は一脚で何万円もするように思われる。OBの方の寄贈でできた図書館だけど、立派な図書館を学生、交友のために贈ってくださったことに心から感謝したい。図書館も立派だけど昼食の施設も凄い。昔は存心館と以学館に食堂があって清心館の向こう側に中華の食堂が会っただけだが、今は食堂も弁当屋さんもパン屋さんもある。それに販売車も数台広場にやって来るからどれにしようか迷ってしまう>
午前11時15分になったので、福居はいつものように西側広場近くの弁当屋さんに向った。
<いろいろな食堂や出店があってパン屋さんもあるけど、非組合員でも534円で食べられるからぼくは雨でなければここを利用する。午前11時40分を過ぎると広場の利用者が多くなるからぼくは少し早くここにやって来る。今日は唐揚げ定食にしようか、味噌カツ定食にしようか、ハンバーグ定食にしようか、ささみカツ定食にしようか、中華定食にしようか>
福居がどれにしようか迷っているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「谷さん、前にもお話ししましたが、このお弁当屋さんはどれでも美味しいです。でも10個もお弁当を買って食べるのはやめてください。みんな腰を抜かしますから」
福居がおろし和風ハンバーグ定食を購入するとM29800星雲からやって来た宇宙人も同じものを注文した。二人は近くにあるテーブルに対面して座った。
「デモ、ワシハオイシイノガスキヤカライッコデガマンシロトイウノハツラインヤデ」
「じゃあ、この後中央広場の販売車に行きましょう。餃子丼とかシシカバブやクレープとかあって楽しいですよ」
「ワシ、ギョウザドンハタベタコトナイケド、ししかばぶモくれーぷモダイスキヤネン。トコロデアンタカタミチ2ジカンチカクモカカルノニヨウクルネ」
「でも家にずっといて懸賞小説への応募原稿を書いたり本を読んだりし続けるのは難しいと思います。外に出れば、電車の中で読書をしたり美味しいコーヒーを飲んだり市バスから京都市内の風景を見ることができます。いろんな楽しみを差し挟むことで、楽しい小説が書けるような気がするのです。万一売れっ子小説家になっても缶詰め状態での執筆はぼくにはできないと思います」
「サイノウガナクテヨカッタネ。デモイチドハキャッコウヲアビタイトオモウテルンヤロ」
「そうですね、ぼくは嫁さんと縁がなくて子孫を残せませんでした。だから後世に本を残そうと『こんにちは、ディケンズ先生』を自費で出版して全国100ほどの大学に受け入れてもらったのですが、それは自費出版が大学図書館に受け入れられたというだけで多くの人の知るところとなっていません。やはり大きな賞を取らないことには小説家、ライター、文筆家という名誉ある呼び名で呼ばれることはないでしょう。まずは有名な小説賞を取って、世間にぼくの名前を知ってもらえたらと思います」
「ソヤケドアンマリイソガシクナッタラノンビリデケンカラコマル、トコウイウコトヤネ。トコロデマタクラシックノハナシヲシテホシイネンケド」
「わかりました、今日は劇付随音楽についてお話ししましょう」
「ワーグナーノジョキョク、ゼンソウキョク、ロッシーニヤヴェルディノジョキョクノコトカナ」
「まずはその説明になりますね」
「ワシ、ワーグナーノタンホイザージョキョクダイスキヤネン。ソレトロッシーニノウィリアムテルジョキョクモ」
「モーツァルトの歌劇の序曲「魔笛」、「フィガロの結婚」も素晴らしいですよ。ベートーヴェンの場合、序曲だけがよく演奏されるというのがいくつかあります」
「エグモント、コリオラン、レオノーレトカヤネ」
「それから忘れてならないのは、メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」の劇付随音楽とグリークの「ペール・ギュント」の劇付随音楽です」
「マナツノヨノユメハジョキョクトケッコンコウシンキョクガユウメイヤケド、ペール・ギュントハアサモソルヴェイグノウタモホカノオンガクモエエカラエエトコダラケヤネ」
「そうです、ええとこだらけです。マリナー指揮のEMIのレコードはルチア・ポップの素晴らしい歌声も聞けるので一度は聞いていただきたいです」
「ホカニエエノナインカ」
「グリークと親交のあったイギリスの作曲家ディーリアスの劇付随音楽も好きです。でもディーリアスは「アパラチア」とフロリダ組曲ですね。ボロディンの歌劇「イーゴリ公」からダッタン人の踊りは「ストレンジャー・イン・パラダイス」というポップス曲にアレンジされてジゼル・マッケンジーなんかが歌っています」
「ロシアノサッキョクカガサッキョクシタキョクガアメリカデウタワレルノハメズラシイコトヤネ」