プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編44」

福居はディケンズ・フェロウシップの総会に出席するために福岡市まで来たので、総会の前に地下鉄赤坂駅で下車して元祖長浜屋に行くことにした。
<今度で福岡に来るのは4回目かな、5回目かな。とにかく福岡に来たらいつもこのとんこつラーメン屋さんに来ている。東京でも昼食を取るのは御茶ノ水のカロリーか渋谷の幸楽苑(餃子の味よし)がほとんどで、他には月島や浅草でもんじゃ焼きを食べるくらいかな>
駅から10分余り歩いて元祖長浜屋に着いて、食券の自販機の前に立つとM29800星雲からやって来た宇宙人の声が後ろから聞こえた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ここはとんこつラーメンを食べるお店ですから、ラーメンの他には替玉、替肉があるだけです」
「カエダマヲ150エンデ、カエニクヲ100エンデヤットルナ。オトクヤカラショッケンヲ10マイズツカッタロ」
「谷さん、気持ちはわかりますが、追加のだしがあるとはいえ、それは醤油だしなので本来のとんこつラーメンの味とはほど遠くなります。替玉、替肉を1つずつにした方がいいと思います。ぼくは元祖長浜屋のとんこつラーメンは程よいとんこつ味の上品で繊細なラーメンだと思うので何杯も食べるようなものではないと思います」
「ソウナンヤネ。ズンドウデトンコツエキスヲナンジカンモニコンダダシニニンニクトベニショウガヲテンコモリニシタンガエエンヤトオモウトッタンヤケドソレハチガウンヤデ、トコウイウコトヤネ」
「そうですね、お店でもにんにくやとんこつラーメン屋さんのあの独特の臭いはあまりしません。まあ好みの問題ですから、濃厚な味がお好きな方には物足りないかもしれません」
「ソレニシテモアンタノバアイ、フクオカニキテモイクトコロガナイミタイヤネ」
「そうですね、ぼくは神戸も行くところがないんです。以前は2、3の中古レコード屋に行くのが楽しみでしたが、新宿のディスクユニオンを知ってからは小さい中古レコード店に行くのがめんどくさくなってしまいました」
「ソンナコトヲイウタラバチガアタルヨ。イママデソウイウトコロデメイバンヲテニイレタコトガアルンヤロ」
「そうですね、丹念に探せば小さな中古レコード店でも名盤があるかもしれませんね。ずぼらなことをしていてはいけないですね」
「コウリツヲカンガエタラアンタノイウトオリヤケド、タマニエエノンガアルカラチイサナオミセモタマニイクノガエエントチャウ」
「そうします、ところで谷さんはラーメン、替玉、替肉の食券を1枚ずつでいいですか」
「ソウヤネ。アンタモコレカラソウカイニイカナアカンノヤロ」
「じゃあ、食券を買って列に並びましょう。2、30分は待たないといけないと思いますから」
ふたりがラーメンを食べて店を出るとM29800星雲からやって来た宇宙人が口を開いた。
「オイシカッタ。カエダマガアルカラ、チョットハマンゾクシタワ」
「そうですね、ここはお腹いっぱいにならないからまた明日も来ようとなります。私は大阪に住んでいるのでそれができませんが」
「ソヤカラアンタハフクオカニキタライツモココニクルコトニナル、トコウイウワケヤネ。トコロデエキニツクマデデエエカラ、クラシックオンガクノハナシヲシテクレヘンカ」
「いいですよ、今日は楽器の音色の美しさを探究したバッハという話をしましょう」
「ヴァイオリンハパガニーニノ24ノキソウキョクヤトオモウンヤガ、チャウンカ」
「パガニーニの24の奇想曲は超絶技巧の曲なので、パールマンやリッチやアッカルドやミンツなんかの技巧派のヴァイオリニストのレコードしかありません。でもバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータはヴァイオリニストの誰しもが目標にする名曲だと思います」
「アンタハダレノエンソウガスキナンカナ」
「やはりシェリングがファーストチョイスだと思います。特にパルティータ第2番がすばらしいです。マルツィのパルティータ第1番もすばらしいです。それから無伴奏チェロ組曲では」
「ヤッパリカザルスヤロネ」
「そうですね、カザルスはこの曲の楽譜を見つけて広めた人と言えます。個人的にはシュタルケルの渋い演奏も好きです。それからオルガンはやっぱりヴァルヒャですね」
「ワシモトッカータトフーガニタンチョウハコノヒトノエンソウニツキルトオモウトルネン」
「そうですね、ドイツ人のリヒター、フランス人のアランの演奏も優れていると言われますが、盲目という大きなハンディキャップがありながらバッハのオルガン曲全曲をずべて録音したのは偉業だと思います」
「シェリング、カザルス、ヴァルヒャハアタマヒトツリードシテイルトイウカンジヤネ」
「そうですね、それにどの曲も安心して聞けると言えますね。小品で楽しい演奏を聞かせてくれるヴァージル・フォックスのバッハを聞きたいと今ふと思いました」
「オモイツキハメモシトイタホウガエエヨ。スグワスレルカラネ」