プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 これからのヒゲについて変」

わしがヒゲについて憧れを持ったのは、中学の頃に見たコマーシャルでやった。当時、アクション映画で人気があったチャールズ・ブロンソンが日本の化粧品のCMに出て、顎を撫でながら、うーん、まん〇〇ちゅーたからで、野性味あふれるかっこよさでわしもいつかヒゲを生やしてみたいと思うたもんやった(当時、〇〇君、顎に何か付いてるでちゅーて相手に顎を触らせて、うーん、まん〇〇、ひっかかりよったちゅーのんが、中学生の間で流行したのを覚えとる)。それからちょっと遡るけど、トニー谷やクラーク・ゲーブルはいい感じやなと思うたもんやった。ほんでわしが行ってた中学校では音楽室に作曲家の肖像画がいっぱい貼ってあったけど、ブラームス、ドヴォルザーク、ヴェルディ、ドビュッシー、チャイコフスキーなんかはかっこええなぁと思うた。高校に入って世界史を習うようになって、世界の偉人や芸術家にもようけヒゲを生やしてた人がおるのを知ったんやが、わしは、リンカン、ダーウィン、ガンジーなんかのヒゲはよく似合っててええなあと思うたのやった。船場は仕事をやめて1ヶ月して、ぼくもディケンズみたいなヒゲを生やしたいんです言うとったが、あいつ、頬のあたりのヒゲが薄いからディケンズのような立派なヒゲにならんと苦悩しとるようや。あいつ、最初はブロンソンのようなヒゲでよかったみたいやが、顎ヒゲまで生やすようになりよった。そのあたりの心境の変化なんかも、訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、にいさん、私のヒゲの変遷について知りたい、とこういうわけですね。そうや、わかった、あんた、いつまで経っても『こんにちは、ディケンズ先生』が売れへんから、文豪のディケンズや夏目漱石のマネして肖ろうちゅーわけやろ。もちろんそれもありますが、強いファクターというものではありません。兄さんと同じようにヴェルディやチャイコフスキーのヒゲはかっこええなあとか、クラーク・ゲーブルのようなヒゲを生やしたら、スカーレット・オハラのような女性と出会えるんやろかと漠然と思うていただけです。一番の要因はやはり、友人で鼻ヒゲを生やした人がいて仕事をやめたらマネしようと思ったからです。まあその気持ちはわからんでもないが、あんたの場合は顎ヒゲも生やしとるやんか。顎ヒゲは昨年8月に発症したコロナが原因で、自宅安静ですることがないから、いっぺん顎ヒゲも伸ばしてみようかなと思うて伸ばしたのでした。1ヶ月してクラリネットのレッスンを受けているJEUGIAの受付嬢が似合っていないからやめときと言われたら、すぐに剃ろうと思うていたんですが、以外に好評で引き続き生やすことにしたんです。最初は1センチくらい生やすとマスクがすぐにズレるので切っていましたが、今は3センチほど伸ばしています。マスクのことを考えるとそろそろ切らないといけないのですが、顎ヒゲの手触りが好きなので、このまま8センチくらいまで伸ばそうか、どうしようかと迷っています。そんなに伸ばしたら、マスクから当然はみ出るやろし、仙人みたいな風貌になるんとちゃうか。そうです、はみ出る恐れがあるのですが、仙人のような風貌を手に入れるためには仕方がないかなと思っています。私のように特徴がないフツーの顔がヒゲひとつで、ブロンソンやディケンズや仙人のような顔に成れるというのはある意味素敵なことだと思うんです。ほんでこれからどんな面白いことを考えとるんや。にいさんがさっきおっしゃったようにぼくの場合、頬ヒゲが濃くありません。だからブラームスや板垣退助のようなヒゲ顔は不可能です。またサルバトーレ・ダリのようないちびりはできません。なので顎ヒゲを剃ってしまうか、両方を生かして私が中学生の頃から大学生の頃までファンだった横山プリンのような風貌にしようか(彼のような色眼鏡は掛けませんが)迷っています。そうか、あんたのヒゲはこれからも進化していく、とこういうわけやね。といっても鼻ヒゲと顎ヒゲを伸ばしたり縮めたりするだけですから、知れてます。要はかっこよく見せたいのですから、奇抜なヒゲは期待しないでください。いやいや、いつまで経っても『こんにちは、ディケンズ先生』が売れんかったら、しゃーないから、ヒゲでおもろいことをしたろというふうになるんとちゃうか。うーん、それはありうることですが、避けたいところです。