プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 48」

福居はヴァスコ・ダ・ガマでビーフカレーを食べると辛いのでいつもハンカチで両目を拭って水をもう一杯飲んでから店を出るが、今日は店を出るとM29800星雲からやって来た宇宙人がいた。
「ナミダグンデルケド、アンタナンカツライコトガアッタンカ」
「いいえ、ここのビーフカレーは辛いのでいつも涙が出るんです」
「ツライデハナクテカライノヤネ。デモナミダヲナガシテウマイモンヲタベルノハニホンジンラシクテエエネエ」
「でもぼくは辛いものはあまり食べないんですよ。辛いものを食べるのはここくらいかなぁ。というのも以前グリコのLEE×20を食べて、30分間ほど涙が止まらなかったということがあったからです。最近は激辛ブームですが、ぼくは世界一辛いとか、ハバネロより辛いと言われても心ときめかないんです。わさびとかカラシの辛さくらいが後を引かないし丁度いいんじゃないですか。洋食だったらここのビーフカレー(なぜかバターチキンカレーは辛くないんです)かLEE×10くらいが丁度いいです。谷さんは辛いものがお好きなんですか」
「カライカレートカカライマーボードウフガハヤットルケド、カラミハシュヤクヤナイトオモウネン。ヤッパリリョウリガオイシイカドウカガモンダイヤトオモウヨ」
「そうですよね、唐辛子をいっぱいかけたりするのは味を誤魔化しているのかもしれませんね」
「デモネ、チョビットヤッタラ、ワサビモカラシモトウガラシモタバスコモラーユモアッタホウガエエトオモウンヨ。ワサビガナイスシヤカラシガナイオデンハナンカタリナイカンジスルノヨネ」
「カラシのないおでんは食べられますが、ワサビなしの寿司は食べる気がしません。このあたりは人それぞれの様ですよ」
「ホンデキョウハドンナクラシックノハナシシテクレルン」
「やっぱり今日は激辛のクラシックというがいいでしょう。暑気払いになるかもしれませんし。ただしこれはぼくのイメージに過ぎません。そんなことはないよと言われるかもしれませんので、期待しないでください」
「ヤッパリ、ガッキョクヨリエンソウヤロネ」
「いいえ、激辛の楽曲もありますよ。ストラヴィンスキーの「春の祭典」なんか激辛のイメージがないですか。それとチャイコフスキーの「スラブ行進曲」や幻想序曲「テンペスト」は熱い演奏で激辛と言えるんじゃないでしょうか」
「クラシックノキョクハオオキクナッタリチイサクナッタリスルンデズットダイオンリョウトイウノハナイカラハクリョクブソクヤネ。チャイコフスキートイウトジョキョク「1812ネン」トイウノガアッタネ」
「そうですね。大砲の実射ではなく生の音入り(空砲)というのがありますから、激辛と言えるかもしれません」
「トコロデゲキカラノエンソウトイウトダレナン」
「リヒテルのベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番「熱情」、ホロヴィッツのムソルグスキー「展覧会の絵」以上はピアノですが、ヴァイオリンではハイフェッツがモイセイヴィッチと共演したベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」は異常な熱さを感じるので激辛の演奏と言えるのではないですか」
「サッキノカレーヤサンデビーフカレーヲタベタヨウニホカホカニナルンヤネ」
「そうですね、激辛と言うより胸が熱くなる激しい演奏と言った方がいいかもしれませんね」
「オーケストラノゲキカラハナイノンカ」
「クラシック音楽の演奏を激辛なんて表現するなんてセンスがないと言われてしまいそうですが、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団プラスモルモン合唱団のシベリウスの交響詩「フィンランディア」(合唱付き)です。合唱が入ってるのでよりいっそう辛味レベルが上がっている気がします」
「カラサレベル3クライナンカナ。アンタガイッテクレタノハゲキカラヤナイカモシレンケド、カワッタフレーバーハアルカモシレヘンネ」」