プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 52」

福居は昨年頭上に横たわる天の川銀河を是非見たいと2度伊吹山星空観測ツアーに応募したが、両日とも福居が現場に到着するとすぐに俄かに天気が悪化し雨が降り出したのだった。特に後のツアーの時は目的地の山頂駐車場に着いた時は晴天だったのが日没で暗くなりはじめると遠くにあった入道雲が3個やって来て天を覆いその後は空が見えなくなったのだった。それでも申し込み方法や当日の集合場所などがわかったのでまた機会があれば参加しようと思った。今年は星空観測ツアーは3日しかなく、福居が開催10日前に予約の電話を入れると3日とも予約でいっぱいですと言われてしまった。それで仕方なく欲求不満を発散させる方法をあれこれ考えた。
<鳥取県はどこでも天の川が見えると言うので一度は行ってみたいが、交通費と宿泊費が工面できないから無理だ。となると近場の奈良になるが、どこに行ったらいいんだろう。以前夏の暑い日に仕事が終わってからJR和歌山線の玉手駅まで行って下車して空を見上げたが、曇天で星は見えなかった。天の川を見るには、1.暗い空 2.晴天 3.月が明るくないことなどが必要だから、せっかく休みを取っても無駄になることがしばしばだ。福居は大学生の時のゼミ合宿で鳥取県の山の中に行ったが、その時は空が澄んでいた。でも強度の近視なのに眼鏡を持ってらず、みんなが星が綺麗と言っているのを羨ましく思っていた。それ以来機会があれば天の川が見たいと思っていたのだが、叶えられていない。5年前にも五條市にある星のくにに行ったが、天候が悪く一瞬天候が回復して大型望遠鏡で土星が見られただけだった。10万円あれば数泊して暗い空に浮かび上がる天の川が見られる可能性があるが、大枚はたいて出掛けても晴天になる保証はなくこれも可能性に過ぎない>
福居が落胆した表情で近鉄大和八木駅のベンチに腰掛けていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が声を掛けた。
「コンナトコロデナニシトルン。ウマイモンガアルンカ」
「いいえ、ぼくがここに来たのは天の川を見たいからなんです」
「アマノガワヤッタライツデモミラレルトオモウンヤケド、アンタハチガウノカ」
「都会に住んでいる人はいろんな条件をクリアしないと天の川を見られないんですよ」
「ドンナジョウケンナノ」
「まず雲がほとんどない晴天ですね」
「アメガフランダケデハアカンノヤネ」
「それから暗い空ですね。京阪神ではまず無理なので、奈良か滋賀での天体観測になりますが奈良が多いようです」
「デモイブキヤマツアーニアンタハイッタンヤネ」
「天気が悪くて見ることができませんでした。伊吹山は天候が急変することが多いから、運転手さんも3回に1回くらいしかきれいな天の川は見られないと言われていました」
「ホタラコトシハイケルカモシレンナ」
「残念ながら、申し込んだ時は予約がいっぱいで今年も....。そうだ、谷さんの宇宙船だったら雲の上に行けるし長年の夢が叶うかも」
福居はそう言いながら、M29800星雲からやって来た宇宙人を見つめたが反応はなかった。
「ソウナンヤネ、ホタラホカノタノシイコトヲシタラエエガナ」
「谷さんの宇宙船は地球人立入禁止なんですか」
「ソウヤナイケド、シュチエーションガチゴウタラミエルケシキガチガウカラネ。ウチュウセンニノリタイトイウネガイダケヤッタラノッケテアゲルケド、ホカノネガイガアルトカナワンカッタラ、アリガタイトオモワレヘンオソレガアル。セッカクノセタノニ、ショウモナトイワレルダケヤ」
「そうですね、ぼくの場合、宇宙船に乗って夜景を見たいというのではなく、天の川を見たいということですから...でも雲の上に行くのだから、雨で見られないということもないし暗い空そのものが見られます」
「ソウオモウヤロ。デモナチジョウカラミルノトウチュウセンカラミルノトデハダイブチガウンヨ。コウソウビルカラハナビヲミルノトニテイル。ショウモナイトイウコトハナイカモシレンガ、チャウナートオモウノハマチガイナイ」
「じゃあ、こういうのはどうでしょう。宇宙船でどこか満天の星空に連れて行ってもらうとか」
「ワシヲタクシーガワリニスルンカ。ホシヲミルダケヤロ。ワシハアマノガワニキョウミハナイネン。アンタガスキニカンソクシタラエエネン」
「そうですね。谷さんにはどうでもいいことですよね。お金が出来て満天の星空が言えるところで数日過ごせる日がやって来るのを待つことにします」
「トコロデクラシックオンガクノオモシロイハナシヲシテホシインヤケド」
「いいですよ。今日はモーツァルトの愛らしい歌曲を紹介しましょう」
「アレルヤトカカ」
「そうですね、アレルヤはモテット「踊れ喜べ、幸いなる魂よ(エクスルターテ・ユピラーテ)」の第3曲で、映画「オーケストラの少女」のヒロインがストコフスキーの指揮で歌っているのを見て知りました。他にも紹介しておきましょう。モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」も3分程の短い曲ですがその美しい旋律からモーツァルトが作曲した曲の中でも人気が高い曲です。合唱曲ですが、楽器の独奏でも演奏されます。最後にピアノ伴奏の歌曲を2曲。「すみれ」と「春へのあこがれ」ですが、前者はゲーテの歌詞にモーツァルトが作曲したもの、後者はピアノ協奏曲第27番の第3楽章のテーマになっていることで有名な曲です。オペラのアリア以外にもモーツァルトは味わい深い名曲を残しています」
「オコッタンカ」