プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 53」

福居は2016年に親族を亡くして以来、京都五山の送り火探訪を続けている。最初の年は大雨に遭って撮影を諦めてずぶ濡れで地下鉄今出川駅まで辿り着いたが、送り火は開催されていて翌日の新聞には点灯された大文字山の写真が掲載されていた。欲求不満が残ったので、その後の日曜日の昼間に出町柳→高野橋→松ヶ崎→上賀茂神社→金閣寺道→松尾大社の順にそれぞれの駅(バス停)で下車して撮影ポイントを探った。翌年は京都在住の友人の好意で彼が住むマンションの屋上から写真撮影を行った。この友人には4回目(2019年)にもお世話になった。3回目は高野橋で「法」を撮影し全力疾走で「妙」が撮影できるポイント(宝が池自動車教習所)に駆けつけたが、すでに6割方鎮火していて「妙」の字には見えなかった。2020年、2021年、2022年はコロナ禍の影響で五山の送り火が縮小開催となったため延期し、5回目の探訪は昨年(2023年)となった。撮影場所は嵐山渡月橋の阪急寄りとしてそこから鳥居形を撮影する予定だったが、遠方にある被写体に露出が合わずシャッターが切れないため写真が撮影できなかった。福居は昨年の失敗に懲りて、今年は宝が池自動車教習所を撮影場所として眼前で燃え上がる「妙」の字を撮ることにした。撮影を終えて松ヶ崎駅から地下鉄に乗るか北山駅から乗るか迷っていると後ろから、ココデナニシテルンと聞き慣れた声が聞こえた。それはM29800星雲からやって来た宇宙人だった。
「ああ、谷さん、あなたも五山の送り火を見に来られたんですか」
「ソウナノヨ。ワタシキョウトノデントウギョウジガスキデ、ゴザンノオクリビハサクネンカラキテルンヨ」
「昨年はどこに行かれたのですか」
「ソラサイショハダレモガカモガワカガンノ「大」ノジガミエルトコロヤロ。ワシモソウシタヨ」
「そうですね。ぼくも最初の年はそこだったのですが、雨に見舞われて写真撮影どころではありませんでした」
「ドンナンヤッタン」
「点灯30分前つまり午後7時30分には出町柳駅近くの鴨川の河原に下りて点灯を待ちました。三脚を立てて撮影をしたかったのですが、大勢の人が来られていて押し競まんじゅう状態でした。しかも点灯10分前になると雨が降り始めました。小雨だったら30分位点灯されるまで待ったのでしょうが、本降りだったので20分程で諦めて帰りました。ところが翌日の新聞には予定通り開催されたと出てました。30分経ってから始まったことも考えられますが、大文字山を濃いガスが覆っていて見られなかったと考えるのが正しいと思います」
「クロウシタンヤネ」
「雨の日は三脚を使うのも難しいですし、今後は雨の日は出掛けないことにしました。でも昨年はカメラが思うように撮影してくれないという困難に直面しました。今までたくさんの写真を写して来ましたが、暗いところで遠方の暗い被写体を移すというのは初めてでした。まさかシャッターが切れないということが起こるなんて考えもしませんでした。花火程の明るさがないためか露出計が働かず、送り火が写せなかったようです」
「バルブサツエイシタラヨカッタントチャウン」
「後でそのことに気付きましたが、適正露出でないために良い写真は写せなかったと思います」
「ホンデマヂカデサツエイスルコトニシタンヤネ」
「その通りです。今日、うまく行ったので来年から、舟形、左大文字、鳥居形、妙法の「法」を撮りたいのですが、今日のように撮影スポットが用意されているかどうかが気になります」
「ネットデシラベタラワカルトオモウヨ」
「ネットでわからない時は足を運ぼうと考えています。あと4回、69才までにこの探訪をひとまず終わらせておこうと考えています」
「アメガフランカッタラウマクイクヤロ。トコロデクラシックノオモシロイハナシキカセテクレヘンカ」
「そうですね、今日は標題に夜がつく曲にしましょう」
「ドビュッシーノヤソウキョクトカカ」
「そうです、でもショパンはその夜想曲をさらにたくさん作曲しています。やはり夜想曲と言えばショパンです」
「ダイ2バン(サクヒン9ノ2)ガイチバンユウメイヤネ」
「ショパンは夜想曲を21曲作曲していて、どの曲も美しい曲です。ショパンのワルツも好きですが、ぼくは夜想曲が一番好きですね」
「ワシハバラードとスケルツォガスキヤネン。レンシュウキョクモエエヨ」
「そうですね。全曲は厳しいけど光るものがあると言うのが、マズルカでしょうか」
「ポロネーズハエイユウダケカナ」
「そうですね、「軍隊」「幻想」の標題が付いているのもありますが、ぼくは激しさだけが耳に残ります。3曲のピアノ・ソナタも聞きません」
「ホカニエエヤウソキョクハナイノン」
「ぼくが好きなのは、ボロディンの弦楽四重奏曲第2番第3楽章の「夜想曲」ですね」
「ソレハワシノスキヤデ。コトシハモウショガエゲツナカッタカラ、アキガマチドオシイネ。ハヤクオチツイテクラシックオンガクガカンショウデキルヨウニナッタラエエノニネ」
「ぼくも待ち遠しいです」