プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 54」
福居は集英社世界文学全集第86巻の『風と共に去りぬⅠ』を読み終えると丁度午前11時30分だったので、昼食を取ることにした。
<それにしても、この本はハードカヴァーで二段組だから手強いな。しかも3巻もあるんだから。大久保康雄訳の『レベッカ』が面白かったから、大久保康雄訳の『風と共に去りぬ』も読もうと思ったけど、新潮文庫(全5巻)にしといた方が携帯するのには良かったかな。今から40年程前に予備校のO先生から大久保訳は良くないというようなことを言われた記憶がある。それでずっと『レベッカ』『風と共に去りぬ』他たくさんの大久保康雄訳の英米文学を読まずにいたけど、食わず嫌いだったようだ。ヘミングウェイ、エラリー・クイーン、スタインベックなんかの大久保訳も読んでみたいが、すごい数だからどこまで読めるか>
福居がなか卯立命館大学前店に入ると、M29800星雲からやって来た宇宙人が鶏から丼と季節の具だくさんみそ汁を食べていた。
「ああ、谷さん、何か御用があってこちらに見えられたんですか」
「キミハサッキ『カゼトトモニサリヌ』ノダイイッカンヲヨンダヨウダガ、ドウダッタ」
「それはN先生が登場される時の台詞ですが、谷さんも文学に興味をお持ちなんですか」
「イッテミタカッタダケ、トイウノデハナクテ、コレカラワシハアンタガオオクボヤスオサンノホンヤクシタホンヲヨミオエタラトウジョウシヨウトオモウトルンヤ」
「それは、なんでやのーーーん。これは私の新しいギャグなんですが」
「ソレハコウイウコトナノーーーン」
「やはりあほみたいやから、これはやめましょうか。どういうことなんですか」
「ワシモコウコウセイノトキニ『Oヘンリタンペンシュウ』『ロウジントウミ』ノオオクボヤクヲヨンダカラネ」
「大久保氏は他にもパール・バックの『大地』、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』そしてコナン・ドイルのホームズ・シリーズ(早川文庫)などを翻訳されていています。今まで読まなかったのは惜しいことをしたと思っています」
「カイシンシタンヤッタラ、コレカラハオオクボヤクモヨンダラエエガナ」
「でも大久保訳の時だけ、谷さんが現れて書評を交わすというのはどうかなー」
「ソレハアンシンシテ。ワシハソノトキダケアラワレテチョビットダケコメントスルダケヤカラ、Nセンセイニハヒキツヅキトウジョウシテモロタラヨロシ」
「安心しました。では『風と共に去りぬ』第1巻についてコメントをいただけますか」
「『カゼトトモニサリヌ』ハナンボクセンソウノトキノオハナシヤケドオオクボシハリアリズムノレキシショウセツデ、トルストイノ『センソウトヘイワ』ニニテイル、スカーレットハナターシャデ、レット・バトラーハアンドレイプラスピエールトイウコトヤ」
「うーん、そういう考え方も可能かもしれませんが、確かナターシャはアンドレイと付き合っている時はヴィヴィアン・リーのような体型でしたがピエールと付き合い始めると彼と同じあんこ型の体型になります。それに対してスカーレットはレットに嫌われないように体型は維持していたと思います。それに1812年のナポレオン戦争は祖国を外敵から守ろうという戦いで南北戦争は内戦ですから少し舞台が違う気がします。この辺りはすべてを読み終えてから、N先生とじっくり意見を交わしたいと思います」
「チュウトハンパナトコロデデテキテゴメンナ」
「いえいえ、文学に興味を持たれたというのは素晴らしいことだと思います。大久保訳に限らず他の翻訳ものの感想を聞かせてください」
「ワカッタ。トコロデキョウモクラシックオンガクノオモシロイハナシヲキカセテクレヘンカ」
「いいですよ。じゃあ、今日は本を読むときのBGMによいレコード(CD)というのをいくつかあげたいと思います」
「キョクニヒキコマレルトカツジガオエナイネ」
「そう、だからベートーヴェンの力がこもった曲は読書の時には避けた方がいいかもしれません」
「トナルトバッハ、モーツァルトトカショパンカナ」
「その通りです。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ、モーツァルトのピアノ協奏曲、ショパンのワルツ、ノクターン、練習曲集なんかがいいと思います」
「アーティストハダレガエエカナ」
「バッハはシェリング盤、モーツァルトはカサドシュとセルの共演盤、ショパンのワルツはリパッテイ、ノクターンはフランソワかルービンシュタイン、練習曲集はポリーニではなくアシュケナージが良いと思います」
「アキノヨナガ、コトシハホンヲヨムコトニシヨウカナ」
「是非そうしてください」