プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 57」

福居は阪急富田駅前にあるプティ・ラプティというパン屋さんに週に一度は行くが、いつも買うのはあげあんパン、タコ揚げパン、コロッケサンド、フレンチトースト、ピーナッツクリームサンド、目玉焼きトーストなどである。パンを購入して店から出ると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ココハナニガウマインヤ」
「ああ、谷さん、このパン屋さんは小さなパン屋さんですが、おいしいパンがたくさんあります。菓子パンもおいしいですが、ベーグルサンドも2種類ありますし、150円のサンドイッチもリーズナブルです。小さなフランスパンにガーリックバターや明太子バターを塗ったパンもイケますよ」
「ソウナンヤ。メロンパンヤカレーパンヤカツサンドモアルノカナ」
「ええ、もちろんありますよ。ただお店が小さいのですぐに売り切れてしまいます。それでも何度も焼きますし種類も豊富ですから、いつ来ても大丈夫ですよ」
「トコロデキミハサッキ『カゼトトモニサリヌ』ノダイサンカンヲヨミオエタヨウダガ、ドウダッタ」
「とにかくスカーレットのいじめが目に余る物語でした。2番目の夫となったフランクが最初の犠牲者でした」
「ダレノカナ」
「もちろんスカーレットのです。スカーレットは税金を払ってタラを救うために恋愛感情は全くないがお金のあるフランクと結婚しました。好きでもないのに長い間交際していた妹スエレンとの仲を引き裂いてです。そんな愛情のないかたちでの結婚でしたから、すぐに嫌いになり夫の仕事の不出来を理由に叱責したりしていました。それでも二人の間にはエラという女の子が出来ます。ある日スカーレットはアトランタのスラム街の治安が悪いのを知りながらひとりで馬車に乗ってそこを通りかかり、浮浪者に襲われます。以前タラで働いていた黒人に救われますが、服が引き裂かれて暴行を受けたのは明らかでした。夫フランクは白人の警護隊の組織にアシュレと一緒に加入していて、見過ごすわけには行きませんでした。自身それほど腕に自身があるわけではないのに妻を傷つけたものに復讐すると勇んで行ったものの返り討ちにされ殺されてしまいます。スカーレットが男性の気を引くような恰好をして危険なことをしなければ問題は起きなかったのです。それからアシュレが腕試しをするために友人を頼ってニューヨークで銀行員の仕事をしたいと言った時に「工場の管理をしてくれるだれも人がいない。もうすぐ赤ちゃんが生まれる」とアシュレの妻メラニーに訴えてアシュレの夢を打ち砕いてしまいます。スカーレットの工場では居候の身で家族を養えないと判断してのアシュレの英断なのに、スカーレットに窮地を救ってもらった弱みのあるメラニーに泣きついて自分の言い分を通してしまいます。さらにそれだけでは物足りないと人件費を安く上げるためと囚人を賃借りしてアシュレの工場で働かせます。慣れない仕事を強要されたアシュレは仕事に生き甲斐を持てなくなってしまいます。そうして最後の犠牲者はレット・バトラーです。何事にも動じないように見えたレットもスカーレットのいじめの波状攻撃には勝てませんでした。スカーレットの心の動きを追わないとなぜそのような行動を取ったのかと首を傾げたくなりますが、一人目の子供が出来てすぐに二人目は絶対作らないベッドも共にしないと宣言したり、妊婦であるのにそのことを告げずにレットと大げんかをして階段の最上段から転げ落ちて流産したり、二人の間にできた愛娘ボニーが危険な乗馬をしていて自分の父ジェラルドが事故に遭ったというつらい経験があるのに注意しようとせず落馬で死なせたり。そういうことがあってそれまでエネルギッシュにいろんな仕事、ある時は法律違反になるような仕事や危険な仕事をこなして来たレットは何をするのも嫌になり自分を慰めてくれるベルの家に入りびたりになり、「身にまとったスーツは、ふとった胴体に押しつけられて、くしゃくしゃに乱れていた。どこを見ても、すばらしかった肉体の衰えが、はっきりとあらわれ、きりりとしまっていた顔が、すっかりすさんでいた。」そんな男性になってしまいました」
「スエレンカラフランク・ケネディヲウバッタダケデナク、アワヨクバメラニーカラアシュレイヲウバオウトオモッテイタノヤネ」
「スカーレットはアシュレが既にメラニーの夫となっているのに、まるで婚姻関係がないかのように暇があったらアシュレとの幸せな生活を空想します。そうしてしばしば誤解を起こさせる行動を起こし世間の評判を落とします。スカーレットが傷つくだけなら自分がやったことだからとなるのですが、アシュレ、メラニーを巻き込んでしまいます。スカーレットのことを信じて時にはかばってくれた女性にこの上ない酷い仕打ちを平気でしてしまいます。メラニーは淑やかだから口に出しませんが、大きなダメージを負ったことでしょう」」
「ホンデ、コノヒトハタラニモドッタラエイヨウザイヲノンダヨウニマエノヨウニナルナルトシンジテルンヤロ」
「そうですね、レットは「きみは子供だというんだ。きみは「悪かった」と言いさえすれば、長いあいだの過失や苦しみが心から消え、古い傷の毒が消えると思っているようだ」「おれが知ってからのきみは二つのものを求めてきた。アシュレを手に入れることと、世間を笑ってやれるほどの金持ちになることだ。なるほど、きみは金持ちになって、世間に向って、さんざんやりたいことをやった。それにいまは欲するならアシュレを手に入れることもできる。だが、いまとなっては、どうやらそれだけでは満足できないようだ」「きみは、あらしのような愛情をアシュレからおれに移そうと思っているらしいが、おれは心の自由と平和をみだされたくないんだ。なあ、スカーレット、おれは、あの不運なアシュレのように追っかけまわされるのはいやなんだ」とスカーレットに説明して、出直すと宣言しました」
「タラニカエッタラエネルギーガマンタンニナリヨルンヤッタラ、マタモドッタリシテソレデハエイエンニコノモノガタリガオワランヤンカ」
「多分、マーガレット・ミッチェル自身はもっと続けたかったんじゃないんでしょうか。レットが45才で、スカーレットが28才ですからスカーレットが50才になるまでは心身とも充実しているようですからいじめを続けられたんじゃないでしょうか。もう一人可哀そうな犠牲者を増やして。この物語の中で政治のことや人種問題のことで不用意な発言を繰り返していたので、この物語を続けたり、続編を出したり、新しい物語を書いたりするのが難しかったんじゃないでしょうか」
「デモココロガアッタマルヨウナホッコリシタショウセツハ、ゾウオガナイカラタイシュウニウケナイノカモネ」
「そうですかあ、ぼくはほっこりの方が好きですよ。今日は『風と共に去りぬ』の話が長くなったので、クラシックの四方山話は次回ということでよろしいですか」
「ソンデエエントチャウ」