プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 58」
福居は週に3、4回小説を読んだり懸賞に応募するための小説を書くために母校立命館大学の図書館に通っているが、行く時はいつも最寄り阪急富田駅から午前7時発の各駅停車に乗って乗り換えずに烏丸駅まで行くことにしている。いつも後ろから2番目の車両の大阪寄りの入口から入り端っこの空いている席に腰掛けることにしている。電車に入るとM29800星雲からやって来た宇宙人が、ハードカヴァーの本を読んでいた。
「おはようございます。谷さんも京都にお出掛けですか」
「ソヤナイノヨ。アンタノマネシテ、ハードカヴァーノセカイブンガクヲデンシャノナカデヨミタイトオモッテン」
「そうなんですね。ところで何を読んでおられるのですか。ちょっと見せてもらっていいですか」
「エエヨ」
それは筑摩書房の世界文学体系第29巻のディケンズ『荒涼館』だった。
「すごいてすね。ぼくも大学生の頃だったか、これと同じものを購入したのですが、3段で500ページ以上なので携帯に不便だし行き帰りの電車で読むのは難しいと読むのを諦めたのでした。それでも2巻に別れた同じ『荒涼館』、ちくま文庫の4巻本の『荒涼館』を購入してどちらも読みました。2017年に出版された佐々木徹訳の『荒涼館』も楽しく読みました」
「コウリョウカンノマニアナンヤネ」
「そう言われるとそうなのかもしれませんが、ぼくがこの小説が好きなのはまるでディケンズが自分の娘を愛でるようにヒロインのエスタ・サマソンを温かい目で見つめているからです」
「ホンデモ、エスタハオモイビョウキニナッテツライメニアッタントチャウノン」
「でも優しいジャーンディスがいましたし、親友のエイダがいますしそれからウッドコートとは結婚します。エスタは3人に支えられて成長して行きます。つらいことがあっても彼らの励ましがあったから乗り切ることが出来たのです。他の小説家の作品にもそういう人が出て来て、読者はほっとさせられます。『レ・ミゼラブル』ではミリエル司教、『モンテ・クリスト伯』ではファリャ神父がその役割をする人です。『人間の絆』には微力ですがフィリップに方向付けする人がいます。絵の先生のフィアネと詩人のクロンショーです。フィリップは二人を尊敬しませんでしたが進路を決めるための大きな示唆を受けました」
「モームハヘンカキュウトウシュナノカモシレンネ。ソレトチガッテ『カゼトトモニサリヌ』デハソウイウジンブツガアラワレヘンカッタネ」
「そうなんです。スカーレットが女王のような位置に立ってみんなを見下していたようなイメージです。そうでなければ、レット・バトラーだけでなく、メラニーと結婚したアシュレも友人として協力を惜しまなかったでしょう。フランクも人当たりの良い気さくな感じなので友人としていろいろな相談に乗ってくれたでしょう。でもスカーレットの人づきあいはすべて自分のためになるかだけが判断の材料になります。レットはどうにも困った時には頼りにしますが、そうでなければアシュレを讃えて相手にしません。アシュレはメラニーと結婚したのにスカーレットはそれを認めず、顔を合わせると熱い視線を送り続けます。フランクの場合は結婚してタラの税金の支払いの目途が立つと無能扱いされて会社の実権を握られます。こういう態度を取り続けるスカーレットに対して、親戚は呆れ、周囲の人は嫌がって近付こうとしません。そうして最後にはレット、メラニー、アシュレの3人だけが頼りとなりましたが、メラニーは産褥で亡くなり、アシュレはスカーレットにやり慣れない仕事を強要されて自信をなくし、レットはスカーレットのわがままと沈黙で酒びたりの日々を送るようになります。レットは最後にスカーレットに思っていたことをぶちまけてすっきりしますが、スカーレットはまだまだ諦めないぞと言っています」
「タラデレットヲトリモドスホウホウヲカンガエヨウトイットルネ」
「とにかくスカーレットは自分が好きなことを言って打ち負かす相手がほしいだけなので、友人や伴侶は必要ないのでしょう。スカッとしさえすれば後はお金が慰めてくれると考えているのでしょう。これでは周囲の人を不幸にするばかりですしこの物語から学ぶものは何もないと思います」
「アンタモスキナコトイウテウップンヲハラシタンデ、スカットシタントチャウ。ダカラコノマエデケンカッタ、クラシックノハナシヲシテチョウダイ」
「わかりました。でもその前にひとつ谷さんにお願いしたいことがあるんです」
「ソレハナンナノン」
「クラシックの四方山話も楽しいのですが、西洋文学の四方山話も谷さんとしたいのです」
「モチロンエエヨ。ホシタラソノトキハ「西洋文学の四方山話 宇宙人編」トイウタイトルニシテクレル」
「そうですね、それがいいですね。では前回できなかったので、今日はちょっと長めにお話ししましょう。こういう時はベストなんとかというのが、便利です」
「コウキョウキョクベストテントカヤネ」
「そうです、今日は奮発して、私が好きな、交響曲と管弦楽曲のベストファイブをお教えします」
「オシエテオクレ。デモキワダッタノガエエントチャウ」
「交響曲はやはりベートーヴェンとブラームスは外せません。そうしてロマン派から3曲というのがいいと思います」
「モーツァルトガスキヤケド、アンタノスキニシタラエエヨ」
「モーツァルトは別の機会に取り上げましょう。で、交響曲ですが、ベートーヴェンは交響曲第6番「田園」です。これは最近クリュイタンス指揮ベルリン・フィルの名演をを聞くようになって改めてこの曲の素晴らしさを実感したからです。ブラームスは交響曲第1番です。これは初めて感動した交響曲で今でも一番好きな交響曲です。ロマン派では、シューマンの交響曲第3番「ライン」、シューベルトの未完成交響曲、チャイコフスキーの交響曲第5番ですね」
「デ、カンゲンガクキョクハドウヤノン」
「最近、気に入っているのはマリナーが指揮でルチア・ポップが「ソルヴェイグの歌」を歌っているグリーグの「ペール・ギュント」です。メンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」もいいですね。ぼくはプレヴィン盤が好きです。それからぼくが個人的に大好きなバルビローリ指揮のディーリアスの「アパラチア」があります」
「イギリスノシキシャバカリヤネ。アトハドイツトロシアニシテネ」
「ロシアはやはりリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」は外せないですね。ドイツは難しいな。ストラヴィンスキーの「春の祭典」とかホルストの「惑星」を考えていました。そうだワーグナーの「ニーベルングの指輪」のDVDを最近見たのでワーグナー管弦楽曲集はどうでしょう。タンホイザー序曲、ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲、さまよえるオランダ人序曲、ローエングリンの第3幕への前奏曲の他にも「ニーベルングの指輪」の管弦楽曲はいいですよ」
「ワシハトリスタントイゾルデノゼンソウキョクトアイノシガスキヤネン」
「ぼくも好きですよ。カラヤンとクレンペラーがいいみたいですが、ぼくはストコフスキー指揮の「ニーベルングの指輪」の管弦楽曲集が好きです」
「ホタラ、ワーグナーデキマリヤネ」