プチ小説「西洋文学の四方山話 宇宙人編 2」
福居は先週は3回母校立命館大学の図書館に行くことが出来たが今週はどうかなと思って阪急電車の京都方面行きのホームに上がると、ベンチでM29800星雲からやって来た宇宙人が文庫本を読んでいるのが見えた。福居が、おはようございます、今日は何を読まれているんですかと尋ねると宇宙人は答えた。
「ハナシガハヤイトオモッテネ、コウイウホンヲモッテキタノヨ」
宇宙人が見せたのは、ページ数が多くない岩波文庫だった。
「アンタハコレガセイヨウブンガクノヨミハジメヤッタンヤロ」
「わあ、懐かしいなぁ。いろいろ事情があって浪人生活が長くなりようやく京都市内の予備校に通うようになって、阪急電車に乗っている間に西洋文学を読もうと思ったのでした。それまでは井上ひさしと星新一しか読まなかったので、いきなりディケンズやモームやユゴーやアレクサンドル・デュマは難しいと思いました。そう思いながら茨木市駅近くの虎谷書店で悩んでいると、200円程で売っている岩波文庫が目に入りました」
「メニハイルクライチイコカッタンヤネ」
「まさか、目に留まったんです。新潮文庫の「人間ぎらい」は以前から面白そうだなと思っていましたが、翻訳者が内藤濯という『星の王子様』を翻訳された方でフランス文学がぼくに理解できるのかなと思っていました。でも200円で売っている岩波文庫なら最後まで読めなくてもいいかと思い、面白そうなタイトルの『スカパンの悪だくみ』『いやいやながら医者にされ』『病は気から』を購入したのでした。モリエールは17世紀の劇作家で作品は劇の台本なので西洋文学とはいえ小説とは別物なのかもしれませんが、面白かったので鈴木力衛訳のモリエールの岩波文庫を全部読み終えると内藤濯訳『人間ぎらい』も読みました」
「スズキリキエサンハダルタニャンモノガタリモホンヤクシテイルネ」
「そうです、社会人になって20年して再び西洋文学を読むようになってから、神田の古書街をウロウロしていて小宮山書店で『ダルタニャン物語』全11巻を購入することができました。それからモリエール全集全4巻は風光書房で購入しました」
「フウコウショボウサンハタイヘンセワニナッタンヤネ」
「店主の方がドイツ文学、フランス文学の造詣が深く、ためになるお話をたくさんしてくださいました」
「モリエールノゼンシュウハイツヨンダノ」
「風光書房で購入したのは今から10年程前で、全部読んだのはそれから5年程経ってからでした。40年程経過していましたが、モリエールのユーモアは新鮮でまた何年かしたら読んでみたいと思いました」
「モリエールノブンコボンハヤスイダケデナクミニナッタ、トコウイウワケヤネ」
「そうです、モリエールは映画も見ました。それから俳優の江守徹さんはモリエールをもじって芸名にしたと聞きます。そういうことがあって、江守徹が朗読する番組NHKの「夜の停車駅」はよく聴いていました。番組の最後で流れるアンナ・モッフォがストコフスキー指揮で歌うラフマニノフのヴォカリーズはセンチメンタルな気分にさせるので好きでした」
「ヨビコウセイニナッテシバラクシテホンヤデモリエールノギキョクノブンコボンヲテニトッタトキカラセイヨウブンガクタンボウガハジマッタンヤネ」
「そうですね。モリエールを読んで他の西洋文学も読んでみようという意欲が湧いて来たのは間違いありません。予備校時代は阪急電車の中で、ディケンズ、モーム、ユゴーなどの作品を理解力不足ながら最後まで読みました。『ダルタニャン物語』を全巻読んだのは今から17、8年前ですが、大作をとにかく最後まで読んだということで大変な自信になりました。鈴木力衛氏の翻訳はぼくの人生のカンフル剤になったと言えると思います」
「スズキセンセイノオカゲデモリエールトアレクサンドル・デュマニシタシメタンヤネ。ソウソウ、アンタガシラントオモウカライウンヤケド、スズキセンセイハヴェルヌノホンヤクモシトルンヤデ」
「まさか、『海底二万里』ではないでしょうね。それとも『地底旅行』でしょうか」
「『ツキセカイリョコウ』ノホンヤクガシュウエイシャカラデトルミタイヤ」
「鈴木力衛氏の別の翻訳が読めるなんて、なんてすばらしい」
「『アカトクロ』『ツバキヒメ』ノホンヤクショモアルミタイヤカラサガシタラエエネン」
「『赤と黒』はちょうど今、佐藤朔訳を読んでいます。それより時間があれば、もう一度『ダルタニャン物語』を読めたらいいなと思います」