プチ小説「西洋文学の四方山話 宇宙人編 6」
福居は先週立命館大学校内の西側広場でヤンニョムチキン唐揚げ弁当を食べられなかったが今週は食べるぞと思って阪急電車の京都方面行きのホームに上がると、ベンチでM29800星雲からやって来た宇宙人が元の色がなくなって黒ずんでいる岩波文庫を読んでいるのが見えた。福居は厚さがばらばらの3冊の本を見て、書名を思い出した。
「その本はもしかしたらユゴーの『九十三年』ではないですか」
「ピンポーン。ドンナナイヨウダッタカオボエトルカ」
「ほとんどの主役級の人が悲惨な死に方をするということしか記憶に残っていません。フランス革命の頃を扱った文学は時代の影響もあるのでしょうが、暗いイメージの作品が多いです」
「フランスカクメイノハナシトイウトランガ、『ニトモノガタリ』ハソノコロノハナシヤネ」
「ディケンズの歴史小説と言われるものには『二都物語』と『バーナビー・ラッジ』があり、『バーナビー・ラッジ』は1780年のゴードンの騒乱の物語という副題がついています。ディケンズは1812年生まれですから、生まれる32年前の物語です。フランス革命の始まりは1789年のバスティーユ監獄襲撃ですからゴードンの騒乱はその10年前ということになります」
「フランスカクメイヲハイケイニシタショウセツトシテハ、アナトール・フランス『カミガミハカワク』ヤロマン・ロラン『アイトシノタワムレ』ヤシュテファン・ツヴァイク『マリー・アントワネット』トカガアルネ」
「話が逸れますが、私は神田の古書街でお手頃価格のツヴァイク全集を買いました。全21巻で1万円もしなかったと思います。その前にハードカヴァーの『バルザック』(早川書房)を読んで面白かったから買ってしまったのです。ツヴァイクの作品は週刊誌的な興味で書かれたところがあると書評を読んだことがあり、気軽に読めそうだなと思って買うことにしました。ツヴァイクの本で一番有名なのは『ジョゼフ・フーシェ』の評伝でフーシェ自身はフランス革命からナポレオン体制の頃のフランスの政治家です。『バルザック』を読むとかなりツヴァイク独自の考えも盛られてて面白かったので、『マリー・アントワネット』『ジョゼフ・フーシェ』をはじめツヴァイクの著書を読みたいと思っているのですがなかなか読めません」
「『アカトクロ』ヲヨミオエテ、サイキンコウタ『テス』『オデュッセイア』モヨンダラスキニシタラエエネン」
「そうですね、でも『マリー・アントワネット』や『ジョゼフ・フーシェ』よりも一番興味津々なのが『マゼラン』です。そうだ『マゼラン』だけは先に読んでおこう」
「スキニシタラエエガナ。トコロデフランスカクメイハドウナッタン」
「ツヴァイク全集の『マリー・アントワネット』と『ジョゼフ・フーシェ』はフランス革命の頃の人物ですから、『マゼラン』を読んだら読もうと思います」
「ソレヨリフランスカクメイトイウコトバヲヒトコトモツカワズニフランスカクメイノヒサンサヲエガイタディケンズハエライトカイッテホシイナ」
「そうですね、とにかく『二都物語』は最初から最後まで張りつめた空気があり革命を描いた小説であることがよく分かります。テレーズ・デファルジの憎悪、ギロチン、チャールズ・ダーニーの拘束、マネット医師の記憶喪失(混乱)などはさらに緊張を高めます。そうしてシドニー・カートンは愛するルーシー・マネットのためにチャールズ・ダーニーと入れ替わって断頭台に上がるところで緊張感が最高潮に達します」
「ヨムノガツライショウセツナンヤケド、ドラマチックデヨミゴタエガアルネ」
「ユゴーは1862年に『レ・ミゼラブル』を著して国民を勇気づけますが、なぜか悲惨な小説『九十三年』を1972年の最晩年に著します。ディケンズは読むと暗い気持ちになる『二都物語』を1959年に著し、1860~1861年に『大いなる遺産』を著します。ここでディケンズの考えていることを斟酌してみると、暗い気持ちにさせてしまって悪かったね。お詫びに明るい前向きな気持ちにさせてくれる小説を君たちにプレゼントするよと考えたのだと思います。そうして書かれた小説が『大いなる遺産』だと思うのですが、谷さんはどう思われます」
「ソウヤネ、ドンナトキニナニヲイウタラジンシンヲショウアクデキルカヲディケンズハヨウワカットッタカラ、ソノヨウニカンガエテテキセツニタイショシタンヤロネ」