プチ小説「西洋文学の四方山話 宇宙人編 7」

福居は今週は週末に親戚が来るので水曜日までに立命館大学校内の西側広場でデミグラスハンバーグを食べておこうと思って阪急電車の京都方面行きのホームに上がると、ベンチでM29800星からやって来た宇宙人が箱入りの4巻本を出したり入れたりしていた。赤い色のカヴァーだったので、福居は数年前に読んだ『ギリシャ悲劇全集』全4巻(人文書院)であると思い、
「谷さん、それはもしかしたら、人文書院の『ギリシア悲劇全集』ではないですか」
と声を掛けた。
「ソウヤヨ。デモ4カンヲモチアルクノハタイヘンナンヨ」
「ひとつずつ順番に読んで行けばいいと思うのですが、そうしてはいけないのですか」
「コウインヤノゴトシトイウカラネ。ジカンハタイセツニセントイカンノヨ。ワシラハソレゾレノメデ1サツノホンガヨメルカラ、ソレニアンタノ3バイクライノハヤサデヨムカラコノ4サツゼンブヲイチニチデヨムコトモデキルンヨ」
「そうですか、とても私にはできそうにないですが、ギリシア悲劇を読むためにはギリシア史を知っておく必要があると思いますが大丈夫ですか。特にトロイ戦争のことは必須だと思います」
「ソウヤネンネ、デモアガメムノンガジブンノムスメノイピゲニアヲイケニエニテイキョウシタトカ、ホッタンガトロイノオウジパリスガスパルタオウメネラオスノツマヘレネーヲツレサッタコトカラハジマッタトイウノハシットルヨ」
「そのとおりです。それからアガメムノンが自分の娘を生贄に提供せざるを得なかったのは弟のメラネオスに請われてトロイに大艦隊を率いて遠征することになったのですが、逆風が吹いて出航できない日が続いたからでした。でもそれで自分の娘を生贄に提供するのかと突っ込みたくなります。アガメムノンはその後妻クリュタイムネストラとその情夫アイギストスに殺されますが、自分の娘を犠牲にしたということがあるので妻に殺されるのもありうるのかなと思います。でもそうして情夫と共に実権を握ったクリュタイムネストラは息子のオレステスに仇討されます」
「ギリシアヒゲキハソノアタリノアイゾウヲナマナマシクエガイタンヤネ。オイディプスモオヤコノカットウミタイナノヲエガイトルネ」
「アガメムノンの劇は国の面子のために自分の子を犠牲にするという話になると思います。一方オイディプスは恋愛のドロドロした感情かと思ったのですが、違っていました。オイディプスは父ライオスを殺したり自分の母親との間に子4人(息子2人と娘2人)を作りますが、それはオイディプスの父ライオスがオイディプスを山に捨てさせたためで自分が意識しないで実父殺害と実母を娶って子供を作ることを行っています。オイディプスはコリントス王ポリュボスに拾われて育てられますが、神託通りに育ての親コリントス王ポリュボス(オイディプスは実父と思っている)を殺したくないと旅に出たオイディプスは旅先で実父のライオスと出会い行き違いで争いとなり殺してしまいます。さらに摂政クレオーンからの勧めで実母と結婚してしまうことになりさらに子供を作ってしまうということで、オイディプスが意識しないうちに悲劇が増幅して行くという感じです」
「ホンデ、ヒサンナケツマツガアルワケヤネ」
「出自を知ったオイディプスは縊死したばかりの実母イオカステーのブローチで眼をついて自ら盲人となりました。目が見えたら冥府に行った時に両親を見られない(顔が合わせられない)ためでした。そうして自ら悲惨な生活を選んで物乞いになるのでした。オイディプスの物語はソフォクレスの『オイディプス王』『コロノスのオイディプス』が有名です。トロイ戦争にまつわる悲劇はアイスキュロスの『アガメムノーン』『オレステイア』やエウリピデスの『タウリケのイピゲネイア』『オレステス』『アウリケのイピゲネイア』『エレクトラ』『アンドロマケ』などがあります」
「エウリピデスハホカニモ「ヘラクレス」トカギリシアシンワノヒゲキモカイトルネ」
「エウリピデスは19編の劇を残したようです。三大悲劇詩人の中ではエウリピデスが一番若いので先人2人を参考にしてより素晴らしい作品が書かれたのだと思います。でもエウリピデスの代表作はトロイ戦争ものやオイディプスものではなく『メディア』だと言われています」
「マア、『メディア』モフクメテギリシアヒゲキヲドンドンドシドシヨンデイッタラエエントチャウ。ギキョクノホシミッツガテンニカガヤイテイテヒトツハシェイクスピア、フタツメハモリエール、ミッツメガギリシアサンダイヒゲキシジンノミツボシヤトワシハオモウトルンヤガアンタハドヤ」
「私の好きなモリエールは意見が別れるところですが、シェイクスピアとギリシア悲劇が瞬いているというのは間違いないでしょう」