プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 大砲の弾で月に行くという発想は受け入れられるか編」

わしが初めて読んだSF小説は星新一の「ボッコちゃん」やった。高校生の頃やけど、わしはその頃星新一と井上ひさしの小説しか読まんかった。実のところはSFは御三家の他の人の小説もちょびっとだけ読んだけど、ロボットや宇宙旅行の話が楽しいと言われる海外小説は全然読まんかった。スターウォーズで宇宙ブームになった後も外国製の映画や小説には興味がわかんかった。というのは物心ついた時からずっと楽しんで来た日本製のアニメの方がずっとおもろかったからや。一番古いのは「ワンダ―スリー」「宇宙少年ソラン」「宇宙エース」やった。ほんまわしが幼少の頃は宇宙でヒーローが活躍するアニメが大うけやった。宇宙に空気がなくて宇宙服で防護せんかったらすごい圧力で押しつぶされてしまう。それより酸欠で死んでしまうちゅー基礎的なことは6才の頃までには知っとった。それに宇宙空間で大活躍するのは宇宙人やロボットで地球人が活躍するためにはそれ相応の装備が必要なこともアニメで知った。ほんまにアニメ様様や。わしはそれから「スーパージェッター」「鉄人28号」「鉄腕アトム」「遊星仮面」「遊星少年パピィ」を見たんやが、ほとんど毎回見とった。そやけど「巨人の星」がはじまるとスポコンアニメがブームになってSFアニメは駆逐されて衰退してしまいよった。ネタ切れやったんかもしらんけど、わしは「サザエさん」のように「鉄腕アトム」や「鉄人28号」をずっとやっててほしかった。スポコンも幼い日にスポーツに関心を寄せさせるというので意義があるんかもしれんけど、わしらが幼い時に見たような夢を持たせるような(怖い場面のない)SFアニメをどんどんとしどしやってくれたらなぁと思うんや。船場は今年の夏から12月に掛けては、貧乏生活やったから秋の旅行に行けんかったみたいで、その代わりようけ海外文学を読んだみたいや。『レベッカ』『風と共に去りぬ』『ガラス玉演戯』『知と愛』『赤と黒』『オデュッセイア』『イーリアス』なんかを読んだおかげで、あいつ本の読みすぎで眼の下に隈が出来て顔中皺だらけになりよった。船場はまるで100年漬けた奈良漬けみたいな感じの顔になってしもうた。そやけど感想文を書いとらんから、あいつSF小説は全然読まんかったみたいや。何でなんかちょっと訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、わたしが最近外国のSF小説を読んだかどうか、気にしてくれてはるんですね。そうや、わしが幼少の頃に見たアニメのようにSFというのは思わぬ出来事が発生するから、小説の面白い筋を作り出す参考になると思うんや。にいさんがおっしゃる通りで楽しい作品を読んでいろいろ参考にしたいところなんですが、ここのところ読んだ外国のSF小説はふたつともいまひとつのめり込めませんでした。だから感想文を書きませんでした。ひとつは楽しい表紙のダグラス・アダムス著『銀河ヒッチハイク・ガイド』です。この小説は続編があって、全部で5冊のシリーズのようですが、ひとつひとつの出来事が宙ぶらりんでもしかしたら『宇宙の果てのレストラン』を読めば解決するのかもしれませんが、余りに荒々しい展開でどうしようかと思っています。これは古本でしか購入できず送料込みで2,000円するというのもあります。読んで今一つだったというのはもったいないです。もうひとつは何やねん。以前、わたしはジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』と『海底二万里』を読んだことがありそこそこ面白かったので、『地底旅行』を読みました。これはかなり面白かったのですが、次にどれにしようかと考えました。次はSF小説の本領発揮ができる『月世界へ行く』とちゃうんか。私の場合、イラストに惹かれて集英社のヴェルヌ全集の『月世界旅行』とその続編『月世界探検』を購入しました。『月世界旅行』が『ダルタニャン物語』やモリエール全集の翻訳をされている鈴木力衛氏の翻訳というのも購入する気になった理由でした。鈴木訳やなかったら読まんかったとこういう訳やな。それほど腰が重かったのは理由があるんかいな。だって、ガン倶楽部のメンバーが大きな大砲を作って砲弾に人を乗せて月に向けて打ち込むというのはとてもありえないことです。それにガン倶楽部の偉い人が物凄い宇宙の知識を持っているという設定でそれを真っ向からできないと否定するニコル大尉も若い軍人(学者?)のようです。そうしてやたら明るいミシェル・アルダン。なぜかありえないと言っていたニコル大尉も一緒に砲弾に乗り込むことになり、イヌ二匹とこの三人が宇宙に砲弾で発射されます。『月世界旅行』の方は出発までで、宇宙のことはほとんど出て来ないので抵抗なく読めますが、『月世界旅行』の方は発射されて以降のことが書かれてあり、かなり怪しげなところが多いので三人が無事に地球に帰還できたと言われても、ホンマかいなとツッコミを入れたくなります。どんなところがありえないところなんや。動力のない弾を発射時の爆発だけで月まで飛ばそうと考えることです。成層圏を突き抜けてぐんぐんスピードを上げてその後月の引力に引き寄せられると考えたみたいですが、結局月に到着できずに衛星のように周回しただけで地球に帰ってきます。そうしてなぜか計算もしないのに陸地に衝突することなく大洋の一番深いところに無事に帰ってきます。数式や主人公バービケインの見解が披露されますが、訳が分からず煙に巻かれた感じです。「ガン倶楽部の人が思い付きで行くことを決心して巨大なライフル銃のような発射台を使って弾丸に似せた宇宙船で月に行こうとするなんて、そんなアホなことができると誰が考えるねん」と思ったのですが、バービケインの目論見は大成功で、小説では帰還した三人はものすごい歓迎を受けたようです。そうしてこうして始まった月旅行の将来を語り部は明るい口調で語っています。まるでこの小説を読んだ人が感化されて月に行きたいと考えて、月世界旅行がどんな方法であれ実現すればええんとちゃうと言っているような感じです。弾で月に行くというのはありえない話ですが、ひとつの方法を提案することで誰かが真剣にシュミレーションして月世界旅行を実現するとヴェルヌは考えたのでしょうか。考えたんやろね、そういうことやから、SFの名著として『月世界旅行』と『月世界探検』は読む価値があるんとちゃうのかな。そうかもしれないですね。