プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 60」

福居は今年は京都市内の神社に行けそうにないからと言いながら元日の午後三輪神社(高槻市内)の方に歩いていると、M29800星雲からやって来た宇宙人がUFOに乗ってやって来て六差路の真ん中に降り立った。人通りがまったくなかったので気にすることはなかったが、突然正面に飛行体が現れたので福居は腰を抜かした。宇宙船が飛び去ると宇宙人は福居に声を掛けた。
「サイキンノアンタノショウガツノオマイリハチカババカリヤネ」
ぱんぱんとお尻の塵を払うと福居は言った。
「そうですね、昨年も午後4時頃に三輪神社に行きました。参道で並んでいると突然揺れたんでびっくりしました」
「ソレマデハ、ショウガツノシンヤニキョウトシナイノ5ツノジンジャヲメグットッタンヤロ」
「あまりにも恵まれていない人生だったんで縋る思いで大晦日の夜に神社がどこにあるかほとんどわからずに北野天満宮を目指したのでした。その後上賀茂神社に行く予定でしたが、知っていた北に行ける通りが烏丸通りだけだったので、烏丸通りを北上してしまい北山通りを東に行ったりしました。幸い深泥池までは行かずに済んだのですがここでかなり時間をロスしました」
「ソレデモ、カミガモジンジャトシモガモジンジャハスンナリイケタンヤロ」
「上賀茂神社を出て北山通りに戻って、東に行って下鴨本通りを南下すれば下鴨神社に行けますからここは問題ありませんでした。でも出町柳まで来た時、どこまで鴨川沿いを南に行くのか迷いました。丸太町通りから少し南に行ったところで岡崎(東の方)に行っとけばわかりやすかったかなと後悔しました。結局冷泉通りを東に入りました。疎水沿いをしばらく歩くと大きなバスの駐車場があり平安神宮が近いことがわかりました」
「ソウシテナントカヘイアンジングウニツケタンヤネ。ソシテサイゴハヤサカサンヤネ」
「京都のことをよく知っている人なら平安神宮→青蓮院→知恩院→円山公園→八坂神社が近道というのはご存じなのだと思いますが、私は午前4時頃なのにわりと人通りがあるところを選んで何とか八坂神社に着くことができました。この時さらにいらないことをしたのですが、八坂神社から阪急河原町駅までが込み合っていたのできっと電車は満員だろうと烏丸まで歩いてしまいました。電車に乗ると満員ということはなかったので河原町で乗っておけば良かったと思いました」
「ソンデゴリヤクハアッタノ」
「お陰様で立命館大学に合格して4年で卒業して医療機関に就職して地道に37年4ヶ月働くことができました。特にしんどい時は神頼みしたい気になり仕事をしていた時は3年に2回はいやほとんど毎年5社をお参りしていたと思います。上を見ればきりがありません。国鉄職員の息子がそれなり頑張った人生やったなと思っています。仕事で良いことはほとんどなかったのですが、趣味は申し分ないほど充実していました」
「ソンナンユウテ、マダマダチョサクデガンバルンヤロ」
「それは大賞を取らないと開けません。日々頑張り続けてその先に新しい展開が開ければ力の限り頑張りたいと思っています」
「マア、ガンバッタッテ。トコロデ、アンタウチヲデルマエニ、ヴィルヘルム・ケンプバッカリキイトッタンヤネ」
「そうなんです。谷さんは何でもぼくのことお見通しですね。ケンプは仕事が辛かった時にやさしく癒してくれたピアニストです。最近は彼の優しすぎるピアノを敬遠していたんですが、久しぶりに聴いてみました」
「ケンプノエエトコロハドコナン」
「やさしい音色と即興演奏ですね」
「ソウヤネ、ピアノハガクフドオリニヒケバエエトイウモノジャナイ」
「そうですね、上手であることは必要ですが、聴衆に聞かせることができるものにしないとつまらない音楽になってしまいます。そのため楽譜にない音を即興で入れたり、音を変幻に動かすわけです。ピアノのタッチ、ペダルやあらゆる技巧を駆使して聴衆を魅惑するのですが、ケンプはそのナンバーワンのピアニストと言えます」
「ソヤケド、ケンプハベートーヴェンノピアノキョクトモーツァルトノピアノキョクダケヤカラモウチョットアッテホシカッタネ」
「でも特にベートーヴェンは金字塔と言えますし...モーツァルトはピアノ協奏曲第23番くらいかな。今はピアノ・ソナタ全集のCDを購入して終わりという感じかもしれませんが、ぼくの場合神戸の中古レコード屋さんで少しずつケンプのピアノ・ソナタのレコードを購入して行った記憶があります。なかでも第17番「テンペスト」、第23番「熱情」、第32番は何度も何度も聞きました」
「シェリング、フルニエトイッショニエンソウシタ「タイコウ」トカ、フルニエトエンソウシタチェロ・ソナタダイ1バントダイ2バンモエエヨネ」
「フルニエとのチェロ・ソナタはよく聴きますよ。シューマンとブラームスはいまひとつだったのですが、シューベルトのレコードにはいいものがあります。即興曲集全8曲は一押しです。それからバッハ、ヘンデル、グルックの作品を集めたアルバムも癒されます」
「ソウヤ、ケンプハイヤシテクレルンヤ。イチドキイタラソノスバラシサガワカルカラ、キイテミナハレトコウイイタインヤネ」
「そうなんです、ケンプは地味すぎるのですが、耳にさえすれば必ず魅了されて好きになれます」