プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 61」

福居は元日までは年末に患った風邪が治らず初日の出を見に行かなかったが、2日も晴天で日の出が見られると知ったので一日遅れでそれを見に行くことにした。ジョギングに行く時はいつもラジオ体操を家で済ませてから家を出ていたので、午前6時45分頃に家を出た。
<今日の日の出は午前7時5分と言っていたから、芥川の堤防に上がって淀川の方に少し行ったら日が上がって来るだろう>
次郎四郎橋を渡って南の方に歩いていると後ろからM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「ハツヒノデヲミルンヤロ。ワシモイッテエエカ」
「もちろん、初日の出はぼくの場合いつも一人なんですが、谷さんと一緒だと思い出になります」
「ソウカ、ソウイワレルトウレシイケド、アンタノココロニノコルヒノデトイウノヲキカセテホシインヤガ」
「いいですよ、ぼくの場合、日の出を見るというのは余りなかったですから、すぐに済みます」
「オサナイコロニリョウシントカシンセキノニイチャントカトミイヒンカッタンカ」
「そうですね、日の出を見るというのはぼくが社会人になって大分経ってから考えるようになりました。44才になって槍・穂高登山をするようになって初めて意識し出しました。もしかしたらそれまでは暗中模索の人生でしたから、わずかの光明に鋭く反応したのかもしれません。山にいて日の出を見るのは私に自然の力を与えてくれるんではないかと漠然と思ったのだと思います」
「タイソウナコトヲイウタケド、ヤリホダカトザンデヒノデハミレタン」
「ぼくは2003年から2010年の間に7回槍・穂高方面の登山、2006年に富士登山、2004年と2007年は八ヶ岳に登りました。八ヶ岳は2004年は赤岳山頂まで、2007年は硫黄岳、横岳方面に行きました。ぼくは晴男ではないので天候には恵まれず、ずっと晴れていたことはありません。そういうことでご来光の時に晴れていたのは2回だけです」
「フジサンハドウヤッタン」
「山頂でのご来光を見るために午前0時頃5合目の山小屋を出る人がたくさんいましたがぼくは夜間登山はしませんでした。景色が見られませんし、慣れないことで怪我をしたら登山が無駄に終わると考えたのです」
「ソンナコトヲイウタラミモフタモナイケドナ」
「それに最近の富士登山の異常な人気はもう富士山頂への登山は出来なくなったと思わせます。登山制限しなければ、登山シーズンの天気のいい日には夜間でも5合目から山頂まで列が出来て山頂には1万人以上のハイカーが昔観測所があったところに集い一つの方向をじっと見ているということになっていたと思います。ブームが落ち着いたら富士登山を考えますが、あと10年は他のことをしたいので体力的にできなくなっているかもしれません」
「ヤツガタケハドウヤッタン」
「八ヶ岳はもっとひどくて、赤岳山頂から少しだけ地上が見えただけです。2回目に硫黄岳、横岳方面に行きましたが終始強風が吹く悪天候で強風に吹き飛ばされそうになったのはこの時だけです。ご来光どころではありませんでした」
「ホタラ、ミエタトキハイツヤッタン」
「ご来光が見られたのは、2005年2006年だけです。2007年に長野県で強い地震がありこの年の槍・穂高登山は中止しました。2008年、2009年、2010年にも槍・穂高登山をしましたが、天候に恵まれませんでした。2011年からは自著の出版に時間を割くようになったのでトレーニングができなくなり槍・穂高登山を断念しました。それでも2015年の秋ごろまでは75キロほどの体重を維持していました。ですが2016年になると両親の介護、仕事のストレスで筋力トレーニングが全くできなくなってあっという間に体重が80キロになりました。今は86から88に間を行ったり来たりしています」
「ゴライコウノハナシガタイジュウノハナシニスリカワッテシモウタネ」
「日の出は気持ちを清らかにさせる気がするので、元日の日の出を拝む気持ちはよくわかりますし自分もそうしたいのですがいろいろな条件があります」
「マズハテンキ、ソレカラシゴトトカヨウジガナイ」
「後は健康状態に問題がなければ出掛けられますが、いつまでも記憶に残しておくためには写真が必要でしょう。近くの土手とかではなくて観光地だとより記憶に残ります。槍・穂高登山どころか富士登山も難しくなった今はどこかの観光地でご来光の写真を撮りたいところですが、これは資金がないと不可能です」
「マア、オカネタメテエエシャシンヲノコシテ。トコロデアンタチェリストデハダレガスキナンヤ」
「昔はカザルスとフルニエだったと思うのですが、シュタルケル、デュ・プレもいいですね」
「ロストロサンハキカンノヤネ」
「いいえ、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番はリヒテルのサポートが素晴しいので好きですよ。シューマンのチェロ協奏曲も好きですが、バーンスタイン指揮ではなくロジェストヴェンスキーが指揮した方です」
「シュタルケル、デュ・プレハドレガエエン」
「シュタルケルと言えば、コダーイの無伴奏チェロ組曲ですね。デュ・プレはバルビローリの指揮が素晴しいエルガーのチェロ協奏曲ですね」
「アンタハカザルストフルニエノドッチガスキナンヤ」
「大雑把に言うと独奏や室内楽はカザルス、オーケストラ伴奏はフルニエが好きですね」
「グタイテキニハ」
「バッハの無伴奏チェロ組曲はやはりカザルスでしょう。室内楽ではゼルキンとのベートーヴェンチェロ・ソナタそれからとのコルトー、ティボーピアノ三重奏曲第7番「大公」、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番、ブラームスの弦楽六重奏曲なんかがいいですね」
「フルニエハヤッパリドヴォルザークヤネ」
「そうですね、指揮者が同じでセル、フルニエの伴奏はベルリン・フィル、カザルスはチェコ・フィルになっています。どちらも名演ですが、こういう場合はやはり録音がいい方を選ぶことになります。他にハイドン/ボッケリーニとシューマンのチェロ協奏曲とチャイコフスキーのロココの主題による変奏曲なんかもいいですね。フルニエの室内楽ではケンプと共演したベートーヴェンのチェロ・ソナタ第1番と第2番が好きですね」
「フルニエハムーアトキョウエンシタショウヒンシュウガワシハダイスキヤ。CDデハデテナイ(コロンビア盤)ミタイヤカラキチョウヤネ」
「ぼくもしばしば聞きますよ」