プチ小説「たこちゃんの決心」
ううっー、どうしてぼくは突然大きい音を出されると、過剰に反応してしまうのだろう。だいたい小さい頃から
大きな音は苦手だった。身近なものではネズミ花火や爆竹、そういえば家族旅行で行った河口湖の花火大会では
余りの大きな音に見物どころでなく家族を放ったらかしてなんとかその場から離れようと、一目散にその日の宿泊所に
向かったんだった。道に迷って家族に迷惑を掛けたけどついに「花火の音が恐ろしくて逃げ出した」なんて言え
なかったんだ。今から考えると耳栓を買えば良かったのだけれど、無粋だと思ってしなかったんだ。少年野球では
失敗の連続だったけれど、汚名挽回しようと近くの児童公園で壁にボールをぶつけてゴロを処理する練習を週末に
していたことがあるんだ。ところがある日そこにポン菓子屋がやってきた。1日中居座って、ドカン、ドカンと
やり出した。もともとレベルアップしようがない練習のむなしさを感じ始めていた時だっただけに、すぐにその特訓を
やめたんだった。それにしても買いに来る人もほとんどいなかったと思うのに、1日中公園の隅々に大きな音を
響かせていた。中学に入ってからは、その公園で遊ぶことがなくなったのでたまに自宅にいて爆発音を聞くだけになった
けど、就職して駅前や百貨店の前でポン菓子を実演販売しているのを見た時には閉口した。今までと違うタイプの人で
人前で大きな音を立てるのを気兼ねしているからか、最初に「ドカン」と小さめの声で言ってから、「ドカン」と
やっていたが、最初の「ドカン」も潜在的な恐怖感を呼び起こすような気がしてかえって恐ろしさを助長するだけだった
気がする。最近は商店街の空き店舗の前でポン菓子屋を見たが、誰かから「ドカン」だけでは駄目と言われたからなのだろう、
「今から、やりまっせ」とぼくが横を通ると言い出した。ぼくは思わず、「何をやねん」と言いたかったが、耳に蓋をして
通り過ぎようとした。いつまでも「ドカン」とならないので振り替えると、ポン菓子屋は「ははは、今のは練習」と言って、
ぼくの方を見て笑ったのだった。ポン菓子屋は思い出したようにたまに出現するだけだが、職場の最寄りの駅の
スキンヘッドのタクシー運転手は出勤する時には必ず駅前に居て大きな声を出している。この前も、商売敵のタクシーが
近くに停車したので、「お前、そんなところに停めたら、通行でけへんぞ、●ホー」と突然大きな声を出した。ぼくが
改札口を出て、シフトチェンジして大股で歩き出そうとした矢先に突然大きな声を出されたものだから、足を滑らせて
尻から落ちたのだった。スキンヘッドの人は横目でこちらを伺っていたが、ぼくは尻の塵をはらうとまっすぐにその
スキンヘッドの人のところに行ったのだった。「おじさん、突然、大きな声を出したら、びっくりするじゃないですか。
気をつけてくださいよ」と言うとスキンヘッドの人は面倒くさそうに耳をほじくっていたが、「お客さん、乗るんやったら
ええけど、ちゃうんやったらあっち行き」とぼくをすごい形相で睨んで、大きな声で言ったんだ。ぼくはすぐに反応して
、
「それやったら、すんまへんけどS病院に行って下さい」と言っただけだったんだ。ぶつぶつぶつ.....。