プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 66」

福居は桜が満開の頃となってもちょうちん行列の下で友人と宴会をしようという気は起こらないが、5年に一度は京都の桜の名所を丸1日掛けて回って写真を撮影したい、また10年に一度は造幣局の通り抜けで毬型の桜の花を撮りたいという気持ちにはなる。昨年は京都の桜の名所めぐりの年だったが、今年は造幣局の通り抜けで写真を撮る年だった。最近は通り抜けも予約制となっていて、福居は午前10時30分の予約を取っていたので午前9時過ぎに家を出た。桜ノ宮の駅を出て橋を渡っていると川沿いに植えられた桜が満開だったが、昨年の夏が酷暑で直近の冬が極寒だったためかいつになく桜のピンク色が濃く感じた。小さい画角ながらも大阪城も彩を添えていたので、福居は会場到着前だったが、思わずカバンからカメラを取り出して何枚か写真を写した。橋を渡ると川沿いを歩いて15分程で通り抜け会場の入口に着くが、しばらく歩くとM29800星雲からやって来た宇宙人が茣蓙を敷いて家族と花見をしていた。福居がその横を通ると、宇宙人か声を掛けた。
「イソギヤナインヤッタラ、オチャデモノンデイカヘン」
「10時30分の予約で11時までには通り抜けの会場に入らないと行けないのですが、それまでだったらいいですよ。谷さんはお花見に来られたのですか」
「ソウヤネン。ココハサクラガキレイヤシ、ユウホドウヤカンコウセンモアルカラネ」
「ご家族でいらしているのですね。子供さんたちとと妹さんですか」
「イイヤコレハヨメハンヤネン。ワシトヨウニトルヤロ」
茣蓙の上にいる人は大小の違いはあったが、みんな、宇宙人と同じ顔をしていた。
「谷さんは通り抜けに行かれないのですか」
「ヨヤクシナイトイケナイカラネ。ヨヤクヲセンデエエトキニナンカイカイッタコトガアルネンケド、マリガタノサクラハホンマニカワイラシイネ」
「お昼くらいまでここにおられるのですか」
「イヤ、キョウハホカニモイクンヨ」
「どこに行かれるのですか」
「マルヤマコウエン、ケアゲインクライン、アラシヤマニイッテネ、オヒルカラハ」
「平野神社とかですか」
「チガウノヨ、チドリガフチ、ウエノコウエンニイクノヨ」
「違いますね。宇宙船を使うと。それで全部のところでこんな感じで茣蓙を敷いてお茶を飲むんですか」
「ハヤクイドウデキルケド、イッカショニ30フンイジョウオルトニッテイガショウカデキナクナルノヨ。ダカラ20フンイナイカナ」
「それではお茶を飲むくらいしかできませんね」
「イイヤ、クシダンゴ、ダイフク、クサモチ、サクラモチ、カシワモチ、ヤキトリ、ゲキカラセンベイ、ポテチ、タコヤキ、フランクフルト、カキノタネ、キツネウドン、オヤコドン、カツドンハヨウイシトルカラハラヘッタラソレヲクウンヨ」
「それらだったらゴザに座らなくても立ち食いもできそうですね」
「ソウヤネン、アルキナガラカツドンヲタベタリ、ハシリナガラタコヤキヲタベルコトモアルンヨ。カミツニッテイヤカラネ」
「でもいくらなんでも、歩きながらうどんを食べることはないでしょうね」
「ソラソウヤガナ、デモラーメンハアルケドネ」
「ところで私は今日はこれから通り抜けに行かないといけないので、クラシック音楽の話は次回にさせていただきたいのですが」
「ソラ、ワシラモオハナミヲセントアカンカラネ。セメテハシリナガラフランクフルトヲタベルノハヤメテホシイワ。ケチャップヤヨウカラシガトビチルカラネ」
「じゃあ、お気をつけて」
「アンタモキイツケテネ」