プチ小説「希望のささやき6」
たろうは数年ぶりに金沢を訪れた。前に一緒だった毛利は仕事で忙しく、今回はたろうが一人で
やって来たが、毛利はたろうの話を聞いて、それなら金沢蓄音機館に行ってまだ寄贈者のところに自分の
名前があるかとできれば寄贈したレコードが大切に保管されているかを見て来てほしいと言った。
午前10時前にJR金沢駅に着いたたろうはすぐに金沢蓄音機館を目指した。約15分して到着しすぐに
入場券を購入したが、前にたろうたちを案内してくれた女性はいないようだった。3階までエレベータで上がり、
展示物を少し見てから2階に降りた。2階のSPレコードが陳列されている棚のところに前に来た時にはたろうたちを
案内してくれた親切な女性がいたが、その日は50代位の男性がいた。太郎は尋ねた。
「以前、こちらにSPレコードを寄贈したのですが、今、それを聴くことはできますか」
「残念ながら、それはできません。1日に3回実演があるので、それを聴いていただきたい...。寄贈して
いただく時に(寄贈したレコードを自由に閲覧したり聴けないことは)説明させていただいている
はずですが」
「そうですか。ぼくは寄贈したレコードがきちんと保管されているのを確認して、安心したかったのですが...」
その後たろうは金沢市役所近くにあるクラシック音楽専門のレコード店を訪れたが、廃業したようだった。
「楽しみにして来たけど、こういうこともあるんだな。でも、この歴史のある町との付き合いが終わりになるのは
少しさみしい気がするな...」
「ははは、たろう君、それは気の毒だったね。ぼくは以前から金沢蓄音機館は蓄音機を展示するところで、希望する
SPレコードを聴かせてくれるとは思っていなかったんだ。でもあの親切な女性がぼくたちのために時間を割いてくれた。
その感謝の気持ちとしてレコードを寄贈させてもらったのだから、それ以上のことは望んでいないよ。2階の一角に
ぼくの名前が表示されているのなら、ぼくの善意は多くの人の目に触れるわけだから、これからも胸を張って
金沢に乗り込めるわけさ」
「でも、あの女の人はどこにいったのかな」
「そうだな、市の職員だから別の部署で頑張っていると思うよ。あと何年かして、金沢蓄音機館を訪れるとあの女性が
現れて、「最近、こちらに戻って来ました。館内を案内しましょうか」と言ってくれるかもしれないよ」
「それはすごく楽しみだけれど、早くそうならないかな」
「ぼくも、もちろんそう思っているよ」