プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 69」

福居は2009年からクラリネットを習っている。コロナ禍で3年半の中断があったが12年以上レッスンを受け続けている。福居は高校時代の選択科目は音楽ではなくて美術だったしブラスバンド部などの音楽系クラブで活動したことがなかった。50才になるまで福居はキーボードでメロディを鳴らすくらいだったが、レッスンを受けるようになると週末は必ずレッスンの予復習をし自分の現状で演奏できそうな楽譜をクラリネット用に限らず買い漁った。最近は専らレッスンを受けているJEUGIAミュージックサロン四条のレッスン室を1から2時間借りて練習することがほとんどとなったが、仕事をしていた時は職場近くのSTUDIO YOU、年始は大阪駅の近くにある島村楽器で練習することもあった。LPレコードコンサートをするために1泊2日の泊りがけで東京に行っていた時は数回JR大井駅近くのスタジオを借りて練習したこともあった。福居は音楽や楽器について何の素養もなく手先が器用でなくリズム感もない、またコードの知識を全く知らない自分が続けて行くためには先生から教わったことを復習して、また音楽を楽しむために自分で演奏できる楽譜を買って演奏して楽しむのが良いと考えた。今日も6月28日の発表会で演奏をするためのレッスンを受けるが、その前に2時間レッスン室を借りて練習をするために午後0時丁度に家を出た。今日は町内会のゴミ当番だったため朝から大学図書館には行かなかった。駅に向かって歩いていると六叉路のところでM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「イマカラクラリネットノレッスンヲウケルンヤネ」
「ええ、レッスンは午後4時からなんですが、その前に2時間ほど練習しておこうと思って」
「デモハッピョウカイデエンソウスルグリーグノソルヴェイグノウタハイチドレッスンヲウケタノトチャウノン」
「まあでも発表会ではピアノ伴奏付きできちんとした演奏をしたいですし、昨年録音に失敗してせっかく完璧に近い演奏が出来たのに悔しい思いをしたのです。ですので今年はきちんと演奏してちゃんと録音してホームページに載せたいんです」
「ソウナンヤネ。クラリネットヲナガクヤッテイルンヤネ」
「でも習い始めたのは50才になってからなんですよ。話が長くなりますが、クラリネットのレッスンを受けるようになるまでいろいろありました」
「サイショハドコマデサカノボルノ」
「やはり小学校でオルガン、中学校で縦笛の演奏ができずに恥ずかしい思いをしたので、高校では音楽の授業を受けなかったというのが出発点でしょうか」
「ホシタラオンガクガキライニナルントチャウン」
「そうですね、音楽教育で習うような音楽には興味はなくなりました。でも当時はフォークソングの全盛時代だったので、かぐや姫、南こうせつ、風、チューリップ、井上陽水、ナターシャセブンの歌は口ずさんだものでした。ナターシャセブンのコンサートに行って楽譜集を入手したのでその楽譜を見ながらオルガンを弾いたりしていました。もちろんワンフィンガーでメロディを押さえるだけでしたが」
「フォークソングトクラリネットハムスビツカントオモウンヤガ」
「ええ、もちろんそのまま何の変化もなく50才に至ったのではありません。浪人時代に入るとテープやレコードを聞きながら歌っていると勉強どころではないと気付き、フォークソングを聞くのはやめて、クラシック音楽を聞きながら勉強をすることにしました。そうしてトランペット奏者のモーリス・アンドレという人を知り、彼のオペラ・アリアをトランペットで演奏したレコードに魅せられたのでした。そうしてトランペットを演奏してみたくなり阪神百貨店にあった楽器店で4万円ほどのトランペットを購入したのでした。まさに衝動買いでした」
「ロウニンセイデオカネモナイヤロニ。トウゼンレンシュウモデキヒンカラナガツヅキハセエヘンカッタンヤロ」
「そうです、当時は国鉄の官舎に住んでいて、教則本を買ってこっそり練習をしてローレライ(ハ長調で変音記号がなく音域も狭かった)が何とか吹けるようになりました。でもある日昼食を食べていると隣にある国鉄(当時)の独身寮でトランペットを下手に吹いている人があり自分もあんな感じて迷惑を掛けているかもしれない、トランペットはレッスンが習えるようになってからにしようと思って吹くのをやめたのでした。それからはクラシック音楽のレコードを集める方に集中しました」
「ナマエンソウハキカナカッタノ」
「レコードで聞いていたクラシックの演奏家のコンサートのチケットは高くて手が届きませんでした。他の人の生演奏を無理して聞こうと思いませんでした。そうして30才の頃からジャズのレコードを収集し始めたので、大学の同級生でプロのアルトサックス奏者になった友人のライヴを見に行くようになりました。京都市内のライヴハウスに数回行きました。この時にリード楽器の音に魅力を感じたのですが、もっとやさしい音の自宅でも練習できるようなクラリネットの方が自分には向いているかなと思いました。というのもウラッハのモーツァルトのクラリネット協奏曲、クラリネット五重奏曲を楽しんで聞いていたからです。そうして他のクラリネットの曲、演奏家も探しました。ブラームスのクラリネット五重奏曲、2曲のクラリネット・ソナタ、モーツァルトのケーゲルシュタット・トリオを聞いてますますクラリネットが好きになったところで私の50才の誕生日が近付いてきました」
「ホンデガッキテンノガラスケースニハイッテイルクラリネツトヲユビサシテ、コレチョウダイトイッタンヤロ」
「ぼくを楽器店に行かせた直接の原因はカール・ライスターがゲルハルト・オピッツの伴奏で演奏するブラームスのクラリネット・ソナタ第2番にのめりこんだからでした。この曲の冒頭が素晴らしくてテンポがゆっくりなので練習すれば自分でも演奏できるのではないかと思ったんです。トランペットの苦い経験があったので、まずは入門者用の安いマイ楽器を購入して(ヤマハの定価20万円程のものをローンで買いました)、京都の楽器店JEUGIAさんの高槻支店で相談に乗ってもらいました。全くの初心者がクラリネットを習うのはハードルが高すぎないかと。やさしい支店長さんは問題ないと言ってクラリネットのローン手続きをしてくださり烏丸まで行かないとクラリネットのレッスンは受けられないと言われ窓口を紹介されたのでした。3月に楽器を手に入れて4月からレッスンが始まりました。今は月3回30分の個人レッスンですが、最初は6人(男性2人女性4人)のグループで1時間のレッスンでした。2年程で女性一人が退会されましたが、他の方とは6年程一緒にレッスンを受けました。中でもNさん(男性)とは今でもたまにメールでやり取りをしています」
「ホンデウマクナッタンカイナ」
「やはりある程度吹けるようになると良い楽器が欲しくなりました。それでクランポンのRCを5年ローンで購入しました。リガチャー、マウスピース、リードもいろいろ買いました。そうして今から6年程前にマウスピースをヴァンドレンCL5、リードをV12の3.0で吹くと自分が望む理想の音で演奏が出来るようになりました。最近では谷上先生のレッスンを受けてレッスン前の練習で上手く吹けたらホームページに載せるようにしています」
「ソウヤネンネ、トコロデソノクラリネットノメイキョクノメイバンヲオシエテホシイワ」
「わかりました、やはりモーツァルトの3曲とブラームスの3曲になるでしょう。モーツァルトのクラリネット協奏曲はたくさんの名盤がありますが、1つ選ぶとするとやはりレオポルド・ウラッハ、クラリネット五重奏曲も同じです。ケーゲルシュタット・トリオはジェルヴァース・ド・ペイエがクラリネットを演奏しているメロスアンサンブルのメンバーのレコード、ブラームスの五重奏曲もウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏で、クラリネット・ソナタ第1番と第2番は先にあげたライスターのオルフェオ盤でしょうか」
「ヤッパリ、アンタハウラッハガスキナンヤネ」
「最近ウラッハのアナログ盤を聞いていないので、今度の週末は久しぶりに聞こうかな」