プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ギリシア史はおもしろい編」
わしは大学受験の選択科目を世界史にしたから人よりちょびっとだけ世界史を勉強した。と言っても、合格のために頑張るぞと思っても長続きはせえへんかったから、西暦375年のゲルマン民族の大移動くらいまでが限界やった。そやけどギリシア・ローマ史は教科書の最初に出て来たから何べんも見て偉人の名前を頭に刻んだ。世界史の先生が、学生が矢鱈ギリシア史について詳しいのに現代史のことを知らないのは問題があるから、教科書を現代史から始めたらええんとちゃうと言わはったという話を聞いたことがあるが、わしもギリシア・ローマ史に登場する人物の名前だけはよう覚えた。トロイ戦争に始まって、その頃のことを文章にしたのがホメロスの英雄叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』で『イーリアス』ではアキレウスとヘクトール、『オデュッセイア』ではオデュッセウスとテレマコスが活躍するということも授業で聞いた気がする。ギリシアはトロイ戦争からホメロスの英雄叙事詩が書かれるまでは文書が残されてなくて暗黒時代と言われていることも世界史で習ろうた。その当時のギリシアでは今の日本以上にたくさんの神様が活躍されとったから、『イーリアス』と『オデュッセイア』にも登場されとる。『イーリアス』ではアポローンとアテーネー、『オデュッセイア』ではアテーネーとポセイドンが活躍されるが、神様が登場するおかげで物語に深みを持たせてる気がする。他に世界史の先生が覚えといてと言うてたのが、三大悲劇詩人アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスやった。三大悲劇詩人がよく取り上げたのは、トロイ戦争前後のことで、悲劇の立役者と言えるのがアガメムノーンやった。アガメムノーンはアキレウスに自分の娘イピゲネイアを嫁がせると約束しておきながら生贄にしてしもうたり、それが原因で嫁はんのクリュタイムネストラを怒らせトロイ戦争から帰ってすぐに情夫アイギストスと仲良うなった嫁はんに殺されてしまいよった。父アガメムノーンの仇討を息子のオレステイスがしたんやがこのあたりの愛憎というのがギリシア悲劇の恰好の材料になったみたいや。ミュケーナイ王のアガメムノーンの弟のスパルタ王のメネラオスは嫁はんのヘレネ―がトロイの王子パリスに誘惑されて連れ去られてしまいよった。ほんでメネラオスは激怒して、兄のアガメムノーンに相談しよった。いろいろ思惑があったみたいで大船団を組織してトロイに遠征することになった。ところがいつになっても風が吹かへんでアガメムノーンは予言を受け入れて娘のイピゲネイアを生贄にしてしもうた。このあたりのことをギリシア悲劇ではよう取り上げるみたいやが、ギリシア神話からプロメテウスとヘラクレス、テーバイのオイディプス王、王女メディアの話なんかも題材になっとるみたいや。わしは哲学はようわからんけど無知の知のソクラテスさんはプラトンやアリストテレスより身近に感じる。ソクラテスさんは自分で本を残さんかったから、弟子が残した本なんかからその言動を知るしかないんやが、クセノポンの『ソクラテスの思い出』はおもろいみたいや。クセノポンは従軍した体験記『アナバシス』やペロポネソス戦争の頃のことを書いた『ギリシア史』の他たくさん著しとる。船場は『オデュッセイア』と『イーリアス』を読んでギリシア文学や歴史に興味を持ったみたいで、『アエネイス』も読んだみたいや。あいつはイギリス文学しか読まんと思うとったんやが、どういう心境の変化があったんやろ、そこにおるから訊いてみたろ。おーい、船場ーっ。なんでなんや。はいはい、にいさん、私がなんで最近イギリス文学を読まんようになったかと心配してくれてはるんですね。そうや、お前はディケンズはんの翻訳をずっと読み続けると思うとったんやが、いつしかアメリカ文学、フランス文学、ドイツ文学の名作を読むようになって、最近ではギリシア文学を読むようになった。ディケンズはんに興味がなくなったんかいな。いいえ、『マーティン・チャズルウィット』と未完の『エドウィン・ドルードの謎』以外は機会があれば何度も読みたいですし、面白そうな新訳が出版されれば買いたいと思っているのですが、なかなか出版されませんしディケンズの興味深い翻訳はだいたい3回以上読んでいますからしばらくは他の名作を読んでみようと思ったのです。アメリカ文学はヘミングウェイを読んでみましたが、肌に合わないと言うかもっと読んでみたいと思いませんでした。ポーもそうでした。フランス文学はスタンダールの『赤と黒』を読みました。スタンダールは以前『パルムの僧院』が全然理解できず苦い思いをしましたが、『赤と黒』は面白かったです。でも結末が悲惨過ぎました。ドイツ文学ではヘッセの『知と愛』『ガラス玉演戯』を読みました。面白かったので、『荒野のおおかみ』を読みましたが、こちらはついて行けない気がしました。そうしてようやく『オデュッセイア』を読むことにしたのです。実はその前に『ギリシア悲劇全集』(人文書院)を読んでいて、ブラッド・ピットがアキレウスを演じる映画「トロイ」とともにギリシア文学を読むための役に立ちました。ほんで、これから、あんた何を読むのん。ウェルギリウスの『アエネイス』を読み終えましたが、これはラテン文学です。でもトロイ陥落後ローマを建国の礎を築くまでを書いているので、ギリシア史と大いに関係があります。プラトンやアリストテレスの哲学書は歯が立たないと思いますので、クセノポンの面白そうな図書を読んだり、ペロポネソス戦争を記録したトゥキディデスの『戦史』を読んでみようかと思っています。そうしていろいろ読んで満足したら、またディケンズの翻訳を読もうと考えています。