プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 73」
福居は発表会での演奏を終えてからしばらくは他の個人・グループの演奏を聞いていたが、風邪気味でしばしば咳が出そうになったのでホールの外に出た。M29800星雲からやって来た宇宙人が福居の側で演奏を聞いていたが、福居が席を立つとそのすぐ後ろについてホールから出て来た。
「ああ、谷さんも来られていたのですね。ぼくの演奏は聞いていただけたのですか」
「モチロンヤガナ。キョウハイオンモデンカッタシ、サイコウノエンソウヤッタンチャウノン」
「そうなんですが、肝心の録音に失敗しました。演奏が上手くできてもその証拠がなければ偉そうなことは言えません。演奏が上手くいっても、録音が出来なければ演奏しなかったのと同じなんです」
「デモクラリネットノコウシノセンセイヤアンタノエンソウヲミタヒトニハレンシュウノセイカヲヒロウデキタンヤカラヨカッタントチャウ。ウマクイッタトイカンカッタトデハオオチガイヤデ」
「そう言っていただけると来年も頑張ろうという気になります」
「アンタハナンカイモエンソウカイニデタンヤロ」
「ええ、レッスンを始めた年から(正確に言うと次の年ですが)。順に言いますと2010年(1年目)が「スワニー」と「木星」(ホルスト「惑星」から)、2011年(2年目)が「ダッタン人の踊り」(ボロディン)と「愛の喜び」(マルティーヌ)、2012年(3年目)が「アメリカン・パトロール」と「匠」、2013年(4年目)が「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(モーツァルト)第2楽章からと「シンコペーテッド・クロック」(アンダーソン)、2014年(5年目)がユモレスク(ドヴォルザーク)と「ボギー大佐(クワイ河マーチ)」(ケネス・アルフォード)、2015年(6年目)が「花のワルツ」(チャイコフスキー「くるみ割り人形」から)と「愛のあいさつ」(エルガー)、2016年(7年目)はチャイコフスキー「アンダンテ・カンタービレ」(弦楽四重奏曲第1番第2楽章)、2017年(8年目)はポール・モーリア「エーゲ海の真珠」とワーグナー「エルザの大聖堂」(ワーグナー「ローエングリン」から)、2018年(9年目)は「君はわが心」(レハール「ほほえみの国」から)、2019年(10年目)は「風の歌」(ブラームス交響曲第1番第4楽章から)と「素晴らしき日々へ」、2020年(11年目)がテイク・ファイヴでしたが、その後しばらくコロナ禍でレッスンは自粛になりました。再開したのが2022年10月で翌年(2023年)発表会も復活しました。曲目はベルリーニ「清らかな女神よ」(「歌劇「ノルマ」から)、2024年(13年目)はドヴォルザーク「月に寄せる歌」(歌劇「ルサルカ」から)、2025年(14年目)はグリーグ「ソルヴェイグの歌」(「ペール・ギュント」から)で、「君はわが心」「清らかな女神よ」「月に寄せる歌」「ソルヴェイグの歌」はピアノ伴奏で私が一人で演奏しました。
「ヒトリエンソウハキンチョウスルケド、クセニナルトコロモアルネ」
「そうですね、やはり自分で演奏したい曲を一人で演奏するには度胸はいると思います。でも自分のレベルに合った曲を選べば、一所懸命練習すれば本番でもそれなりの演奏を披露できると思います」
「ワシノリクエストキイテクレヘンカナ」
「どんな曲ですか」
「モーツァルトクラリネットキョウソウキョクトゴジュウソウキョクヤネン。ソレトブラームスノクラリネットソナタダイ2バンモヤネ」
「私もクラリネットでいつか演奏出来たらと思う曲ですが、多分、あと10年頑張っても無理でしょう」
「ホタラ、アンタ、ナニシマンネン」
「数日前に楽譜の棚を整理していたら、「ヴィリアの歌」(レハール「メリー・ウィドウ」から)、「ノクターン」(ボロディン弦楽四重奏曲第2番第3楽章のクラリネットとピアノでの演奏)の楽譜が出て来ました。他にメンデルスゾーンの「五月のそよ風」もクラリネットで演奏できそうなのでササヤ書店で楽譜を探してみます。シューベルトの歌曲には魅力的な曲がたくさんあるので発表会で演奏できそうな曲を探そうと思っています」
「ソウナンヤ、ソレヤッタラマダマダネタギレニナルコトハナサソウヤネ」
「ええ、まだまだ頑張りますよ。あと10年くらいはクラリネットを吹けると思いますから」