プチ小説「たこちゃんの食卓」

ぐうーぐうーぐうーぐうーってお腹が鳴るのも無理ないな。給料前になると玉子とキャベツで凌ごうとするからなんだ。
ごはんを食べればいいのかもしれないけど、誰かに太ると言われてから1回に1杯と決めているんだ。朝は、目玉焼きを
あつあつご飯に乗せるだけというのが普通で、たまにはそれに前日のおかずの残りが付くくらいだ。だいたい朝ごはんで
3つも4つもおかずを付けようと思うのは贅沢の極みだと思う。玉子1個なら20円で済むじゃないか。それに玉子なら、
目玉焼きに飽きたのなら、スクランブルエッグでもいいし、醤油に飽きたら、ソースやケチャップもいいじゃないか。
朝はそんなでいつも質素だが、晩ご飯は豪勢だぞ。僕は麺類が好きだから、ほとんど毎日麺類でお皿か丼に3杯食べている。
月曜日はそばの日なんだ。丼3杯のたぬきそばやきつねそばを食べている。火曜日は焼きそばを思う存分食べる日なんだ。
3人前の調味料入り焼きそばを買って来て豚肉ともやしを入れて食べている。水曜日は焼うどんを食べる日だ。うどんを
3玉買って豚肉と白ネギを入れて食べている。木曜日はスパゲッティーと各種ソースの日だ。フライパンでゆでたスパゲッティー
を市販のいろんなソースをかけて食べている。金曜日はラーメンスープと青ネギと焼豚を買って来て前日に残しておいた
スパゲッティーを入れて食べている。土曜日は奮発して鍋焼きうどんをするけれど、鶏肉と白菜と白ネギを入れるんだ。
日曜日はカレーのレトルトパックに決めているが、最近は百貨店に行くといろいろなレトルトカレーがあるので迷ってしまう。
独り住まいを始めて8年になるけど、最初の頃はカレー、シチュー、皿うどん、グラタン、ハンバーグ、キムチ鍋なんかを
作っていたけれど、すぐに体重が10キロも増えてしまったんでやめたんだ。お酒は14年前にやめたけれど、ソフトドリンク
とかコーヒ、紅茶などで充分だと思っている。アルコールが入っていい気持ちになると眠たくなる。そうすると本も読めなくなるし
音楽を聴いていても右の耳から左の耳へと通り抜けるだけになるんではないかと思う。ばりばりばり、ぐるるぐるるーっ。
い、いかん、朝ご飯に賞味期限を4日過ぎた玉子を3つ食べたのがいけなかった。ぷー、すー。あぁー、危なかったが助かった
ようだ。そうだ、ここはスキンヘッドの運転手との友情に期待しよう。あ、いたいた。「おーい、きみぃ」あれ、こっちを
見ていたのに向こうを向いてしまった。どうしたのかな。もう一度、呼んでみたいが、大きな賭けのような気がするな。
「おーい」ぐるるるるるー。もう、だめだーっ。と、その刹那、スキンヘッドの運転手が声を掛けてくれたんだ。
「お客さん、今やったら、あそこの喫茶店のトイレに駆け込んだら、間に合うで。わしも腹こわしたら 、よういくねん」
「そうですか、あり、ありがとう」幸運にも、トイレに人が入っていなかったので、助かった。スキンヘッドの運転手に
謝意を表そうとして、近づいて行くと、「お客さん、トイレあるの教えたからゆうて、別にお礼言わんでもええよ。
こう見えても、ぼくたちは困った人をみたら、ほおっておかれへん質なんやから」「じゃあ、職場まで乗せてもらおうかな」
「そうか、それやったら、乗りーや。おおきに。それから言うとくけど、この前言うてた特典はこれでチャラやでぇ」そう言って 、
突然、車を発進させたから...。ぶつぶつぶつ...。