プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 77」
福居は今年2013年以来の酷暑に悩まされていた。
<だって朝方に気温が下がることなく一晩中27~28度をキープしている。夕方も猛暑(35度以上)のままだったりする。空調が利いた部屋にいる限りは高温に苦しめられることはないが、電気代が眼をむくほどになる。ペーパードライバーで車を運転しないから、一旦外に出ると途方にくれることになる。特に僕の家は最寄りの駅から徒歩で20分離れているから辿り着くまで大変だ。コンビニの前を通るたびに中に入りたくなるが、何も買わないで出るわけにも行かないし>
福居の前をソフトクリームを美味しそうに食べている小学生が通り過ぎた。
<アイスクリームも暑さ凌ぎになるが、ソフトクリームだと1分以内に食べないと半分溶けてしまいそうだ。こんなに暑いとソフトクリームやアイスクリームはお菓子に過ぎず、かき氷でないと落ち着いて食べられないし身体が冷えない気がする>
今度は福居の前をハンディ扇風機を顔に当てた女性が通り過ぎた。
<あんな小さな扇風機で暑さが凌げるのだろうか。それに充電器が衝撃に弱いのが気になる。それで今のところは日傘と同様に購入していないが、なしでは過ごせない日がやってくるのは間違いない。男性用の日傘は4年前に初めて見たが、今は半分位の人が携帯するようになった。ファンがジャケットに内蔵された服も多分リチウムイオンのバッテリーが出来て可能になったと思う。コードがあったのでは安心して作業が出来ないだろう。この前帯広で最高気温が38度まで上がって、今までそんな高い気温に上がったことがない地域ではエアコンは普及していないようだ。年に数回なら我慢しようと思われるのかもしれないが、ぼくには我慢できそうにない。一晩中空調を入れっぱなしにするようになったのは、ある日朝起きると枕がずぶ濡れになっていて頭に変調を来たすことがないかと心配になったからで、夜だけでなく一日中エアコンがない家の中で過ごすことは不可能だと思う>
ふと路傍を見ると、大型の冷風扇とスポットクーラーを横に置いて腰掛けているM29800星雲からやって来た宇宙人が眼に入った。
「さあ、冷風に当たるのはただやから涼んで行ってやー」
福居はM29800星雲からやって来た宇宙人がいつもの口調と違うのに気付いたが、気にせずに声を掛けた。
「ご苦労様です。谷さんは社会のためになることもされるのですね」
「ソウヤネン、コンナケアツイトダレデモタイチョウガオカシクナッテシマウカラネ。デモイマハヨユウガアルケド、ドコマデコラエラレルカ。コトシハダイジョウブカモシランガ、ライネンガドウナルカキニナルワ」
「毎年猛暑日が続くわけではないから来年は大丈夫でしょう。真夏がいつまでも続くということもないですし」
「アンタガイウトオリヤッタラエエンヤケド。ソウヤワシコンナコクナテンキガツヅクトキハクラシックノゲンテントモイエルクツロギノオンガクガキキタイネンケド、エエノンアルカ」
「くつろぎの音楽ですね。最初に浮かぶのは、シューベルトの2つの即興曲集ですね。合計8曲ありますがどの曲も美しいです」
「モーツァルトモエエントチャウ」
「そうですね、モーツァルトならセレナード第11番、第12番「ナハトムジーク」はどうでしょう、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン2つずつで演奏されます」
「アンタガスキナシベリウスハドナイデッカ」
「シベリウスは管楽器の咆哮があってあまり安らがないのですが、カレリア組曲やトゥオネラの白鳥は咆哮がないからいいかもしれません」
「アトヒトツハナニガエエノン」
「ボロディンの弦楽四重奏曲第2番「ノクターン」。それからこちらも是非どうぞ。それはラフマニノフの「ヴォカリーズ」です」
「「ノクターン」ノダイ3ガクショウハホンマニエエネ」