プチ小説「長い長い夜 21」

十郎はショパンのノクターンが好きで、サンソン・フランソワのレコードは何回か洋子のお父さんに聞かせてもらったが、他の演奏家が弾くノクターンやショパンの他の楽曲の名盤が知りたくて、学校の帰りに山北に尋ねてみた。
「ノクターンだったら、ルービンシュタインがぼくは好きだなあ。それからフー・ツォンもリリカルでよい演奏だと言われている」
「リリカルってどういう意味なの」
「抒情的という意味で叙情小曲集というグリーグの曲集がある。でもこのタイトルはリリック・スーツだからリリカルとはちょっと違う意味なのかもしれない」
「叙情小曲集は前にエミール・ギレリスの演奏を洋子ちゃんのお父さんに聞かせてもらったね」
「うん。ぼくは「アリエッタ」と「おばあさんのメヌエット」が好きだなあ」
「ねえ、ショパンの他の曲の名演奏というか名盤を教えてほしいなあ」
「じゃあ、演奏家から行こうか。山根君は好きなショパン弾きはいるのかな」
「ショパンの曲を弾くのが得意の演奏家のことだね。やっぱりサンソン・フランソワかなあ。練習曲集はウラディミール・アシュケナージが良かった。僕はアルフレート・ブレンデルのショパンがないか調べたんだけどなかった」
「そうだね、ブレンデルはベートーヴェンやモーツァルトそれからショパン以外のロマン派つまりシューベルト、シューマン、ブラームスを得意としているしその上にショパンの曲を弾くとなると寝ている暇がなくなるかもしれない」
「レパートリーに入れるためには練習しないといけないからね。そう考えるとルービンシュタインはショパンはほとんどの楽曲を録音しているしベートーヴェンやモーツァルトやロマン派の音楽も録音しているよ」
「でもブレンデルのようにベートーヴェンのピアノ協奏曲とピアノ・ソナタ全曲を録音していない。ブレンデルは他にシューベルトのピアノ曲、室内楽曲、歌曲の伴奏などたくさんのレコードを残しているしモーツァルトのピアノ協奏曲、ピアノ・ソナタもほとんどの曲を録音している。ルービンシュタインはショパン以外は広く浅く録音している感じだね。やはり演奏家も好きな作曲家の好きな曲を録音したいんじゃないかな。でも誰でも挑戦したいのはショパンとベートーヴェンだろう。でも両作曲家の主要曲をほとんど録音していると言うのはアシュケナージくらいだろう」
「主要な曲というと何があるのかな」
「ベートーヴェンは協奏曲とソナタ、ショパンは2つのピアノ協奏曲、プレリュード(前奏曲)、エチュード(練習曲)、ワルツ、ノクターン、バラード、スケルツォ、ポロネーズ、マズルカなんかかな。一昔前はケンプ、バックハウス、リヒテル、ホロヴィッツなんかが人気を分け合ったけど、ケンプはベートーヴェン全曲、モーツァルトとシューベルトを中心にロマン派の一部、バックハウスはベートーヴェンとモーツァルトを中心にロマン派の一部、リヒテルはチャイコフスキーとラフマニノフを中心にロシアの作曲家の作品とショパンを中心にロマン派の一部、ホロヴィッツはベートーヴェン、シューマン、ショパンの一部の曲など幅広くという感じだね」
「山北君は誰が好きなの」
「ぼくはどちらかと言うとある曲をどのように演奏するかだ。例えばベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番はたくさんの名演がある。ケンプ、リヒテル、グルダ、バックハウスなどなど。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番はケンプ、バックハウス、ハスキルなどがある」
「シューマンのピアノ協奏曲が僕は好きなんだけど」
「ああ、それならやっぱりリパッティが一番かな。リパッティはショパンのワルツも最高なんだ。ハスキルが白血病で余命のほとんどないピアニストを輝かせた。モーツァルトのピアノ協奏曲第21番も最高の演奏と言える。グラモフォンで有名なピアニストが他にもいるけどぼくは今まで言ったピアニストの好きな演奏を聞いて行きたいと思う。そうだ、あとゼルキンはシューベルトのピアノ・トリオ第2番ですばらしい演奏をしている。グールドはバッハのゴールドベルク変奏曲(旧盤)とブラームスの間奏曲集で味のある演奏をしている。コルトーは古い録音だが一部聞きやすいレコードが残っているからそれでショパンの前奏曲集、バラード集、練習曲集を行けば偉大な演奏家の演奏を堪能できるだろう」
「わかった、一生かけて全部聞くよ」