プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 78」

福居は毎年8月8日に開催される茨木辯天花火大会で写真撮影をすることを今年は諦めた。今年は安威川の堤防を歩いてロケーションをして望遠レンズで撮る予定だったが、午後2時頃に外出した時にゲリラ豪雨に遭い危うくずぶ濡れになるところだった。それで雨雲レーダーで調べたところゲリラ豪雨が予想されるので、リスクをおかしての写真撮影をしないことにした。
<今年の夏の最大の楽しみだったのに。でも強行して全身ずぶ濡れになるだけでなく、写真機材がダメになってしまっては後悔が残る。もし雨が振って来たら、写真機材が傷まないように小雨でも中止しなければならない。それに風邪を引いてしまったら、明後日予定されている町内会のタンポポ公園の清掃に参加できなくなる。ぼくは班長だから欠席するわけには行かない。それでも来年の下見として機材を持たず傘だけ持って出掛けるのは問題ないだろう>
そう思い、福居は傘と小銭だけを持って家を出た。
福居は以前月食をじっくり見るために阪急総持寺駅で下車して安威川の堤防に上がったことがあるが、茨木辯天の方角に障害物がないかが問題だった。
<直線距離で言えば自分のうちからとあまり変わりがないが、うちの真ん前の家が3階建てなので障害になって見えない>
福居が堤防をウロウロしているとM29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「シャシントレヘンノニゴクロウサンヤネ。サクネンミタイナコンビニノヤネヤシンゴウキガウツットルノンヨリマシカモシレンガ、キフキンヤシテイセキリョウキンヲハラッテユックリトカンランシタラエエントチャウン」
「指定席だとゆったりと座って花火を観覧できますが、花火の撮影の方はできません」
「サイキンハスマホノセイノウガアガットルカラセイシガモキレイニトラレルントチャウン」
「そうでしょうか。もしかしたら手振れ防止機能が付いていて手振れは防げるかもしれませんが、画角は変わらないので、前に大きな花火が画面いっぱいに広がったとしたら、花火の一部しか写らない気がします。少し引いたところでレンズを選んで撮影するのが良いと思います。黒い夜空に花火の形が写る方が、線が一杯写っている花火よりいいと思うのです。それでぼくは指定席では自分が望むような写真が撮られないと思って周りのどこかいいところを探すのですが、そういうところは塀が出来て写真撮影どころか花火を見ることも出来なくなっています。言い方が不適切かもしれませんが、タダでは見せないぞという感じです。そういうこともあって、花火をどうしても撮影したいという気持ちが薄れて来ました。もっと自由に撮影できる被写体の方がええんとちゃうと思うようになりました」
「アンタハナニカアルトキモチガナエルカラネ。モットシコウサクゴシタホウガエエシャシンガトレルトオモウケドナ」
「写真を撮ろうとしてそこを遮られたら、しかも公的機関主催の花火大会ですからそれを無理に撮影するとしたら、なにかやましいことをしている気持ちになります。それに警備の人もおられますから、注意をされると思います。それまでして撮影したいと思いません。スマホで撮影するのに満足できないアマチュアカメラマンは他の被写体を探すしかないんです」
二人が話していると一発目の花火が暗い夜空に花を描いた。
「ヤッパリ、ハナビハウツクシイネ。アンタガムカシシタヨウニキンジョノヒトガタカダイニアツマッテカンランスルトイウノガフゼイガアッテエエノカモシラン」
「時代の流れに乗らないと続けられないのかもしれません。スポンサーをつけるのが難しいなら、観覧席でお金を払って見てもらうしかないのかもしれません。でもぼくは少し離れたところで静かに見るのがいいです。それに実は花火の爆発音が苦手で、家族旅行で河口湖の花火大会を見た時には爆発音に怯えて迷子になったほどです」
「ソウカ、ソラニゲダシタクナルワナ」