プチ小説「青春の光」

「あなたが橋本さんですか。実は今日お邪魔したのは、少しお尋ねしたいことが
 あるので…」
「今は休憩中なので、仕事の話なら後にしてほしいが」
「いいえ、そうではありません。筋力を手っ取り早く身につけるにはどうすれば
 よいかを伺いたいのです。空手の指導者をされているということなので、それ
 をご存じではないかと」
「……」
「昨年の9月に槍ヶ岳の登山口の山小屋から槍の穂先を見て、どうしても登って
 みたくなったのです。昔から運動は苦手だったのですが、どうしても登頂した
 いと思いそれから毎日30分腹筋などの筋力トレーニングをするのですが、
 成果が上がらず、この前の日曜日は腹筋をし過ぎて、お尻を火傷してしまいま
 した。何か成果の上がる方法がないかと…」
「君の話は面白いから、協力してあげよう。腿上げというのをしてみたらどうだ
 ろう。こういうふうに両手のひらを下に向けてそこにケリを入れるようにする。
 最初は100回三本するのもしんどいだろうけど、1週間もすると楽にできる
 ようになるだろう。あとは回数を増やすとか長時間続けるようにすれば、自然
 と脚力はつくよ。それから空手の基本的な型も教えてあげよう」

「うーむ、見違えるようになったね。これで君も青春を取り戻したわけだが、山
 は危険が伴う。筋力が付いただけでは駄目だと思う。近くの山でトレーニング
 してから、本番に望んだ方がいいと思うよ」
「そうします。でも、2ヶ月前にはとても考えられなかったことができるように
 なりました。足が軽くて、膝も高く上げられるようになりました」
「それはよかった。何事も一念発起というのが必要だが、君の場合うまいこと
 それに出会えたわけだ。槍ヶ岳に登ったら、また話を聞かせて…」
「本当にありがとうございました」