プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 81」
福居は9月7日に東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンでLPレコードコンサートを開催するが、その時の行き帰りの新幹線の切符をJR高槻駅のみどりの窓口で購入した。松坂屋のマツチカで御座候の太鼓まんじゅうを購入しようと陸橋を歩いていると、M29800星雲からやって来た宇宙人が福居に声を掛けた。
「モウスグトウキョウニイクンヤネ。コンカイハタノシミガアルンヤロ」
「ええ、大学1、2回生の時にドイツ語を教えてくださって、他にも帰りのバスで外国文学をいろいろ紹介してくださった先生がもしかしたらLPレコードコンサートに来られるんではと期待しているんです」
「ナンカデコクチシタンカ」
「告知をしたのではなくて、先生が出版された専門書の感想文を書いて、「大学生の時に先生にドイツ語を習ったものですが、もし昔の教え子の顔を見たいとお思いになられましたら、御足労いただくのは恐縮ですが、名曲喫茶ヴィオロンにご来店いただけたら有難いです」とホームページに掲載したのです」
「ソレダケデ、キテイタダケルノカシラ」
「そのドイツ語の先生はご専門がギリシアの英雄叙事詩と言われていていましたが、その後、クセノポンを研究されるようになられたようで感想文を書いたのは、クセノポン『ギリシア史』という歴史書で専門家の先生方は『ヘレニカ』と呼んでいるようです。ペロポネソス戦争の後半(紀元前411年から)をトゥキディデス(アテネの将軍だったが解任されてペロポネソス戦争のような戦争を二度と起こさないようにと『戦史』という歴史書を書いた)から引き継いで書いたものですが、依頼したのはこの戦いに勝ったスパルタからのようです。クセノポンはソクラテスの弟子でアテネで活躍していたようですが、彼の著書『アナバシス』のような体験をした後にスパルタで著作活動をするようになります。それで『ギリシア史』を書いたのですが、他にもたくさんの本を著しています。とても今から2400年以上前の人とは思えません」
「ダイガクセイノトキニギリシアノコトヲイロイロオシエテモラッタノ」
「先生からホメロスの『イーリアス』と『オデュッセイア』を勧められたのですが、読みませんでした。とても紀元前の物語を理解できると思えなかったからです。それで学生時代に読んだのは、ディケンズ、モーム、オースティン、フィールディング、スイフトなどのイギリス文学でした。私がその話をすると意識の流れの手法の作家を何人か教えてくださりました。スターン、ブロッホ、ジョイス、ウルフなどです。今から16年前にこれら先生から教えていただいた名著(ギリシア文学、歴史書、ヨーロッパの文学作品)を読み始めて最近やっと一通り読んで感想文を書いたのでした。先生から勧められた本を感想文としてホームページに残しているので、昔生徒だったものとしては先生にご意見を伺いたいと思うのです」
「デモセンセイモゴコウレイヤカラキハルカノウセイハヒクイントチャウ」
「そうです、それともうひとつ気掛かりなことがあります。実は9月4日に母親が大学病院で診察を受けるのですが、その後手術を受けることになっていて、その結果次第で谷さんと気楽に話すことが難しくなる可能性があるのです」
「マアソノコトヲツッコンデキクノハヤメトクワ」
「多分、検査をして9月8日以降に手術があると思うのです。この予定だとLPレコードコンサートは開催できるのですが、早く手術をした方がよいとなると母親の付き添いをするためにLPレコードコンサートは延期となる可能性があります。母親が落ち着かないとクラリネットどころでありませんから、9月2日のレッスンは受けますが9月9日は無理だと思います。そういうことで9月7日のLPレコードコンサートは母親の手術を早い目にした方がよいということになったら延期になります」
「オカアサンノシュジュツガブジオワッテ、センセイトサイカイデキタラエエネ」
「ぼくもそうであるようにと願っています」