プチ小説「青春の光 117」
「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「どうかされたって、もう少ししたら船場君がここにやって来ることは田中君も知っているだろう」
「もちろんわかっていますが、いつものように拙著『こんにちは、ディケンズ先生』の宣伝をよろしくと言われるだけじゃないんですか」
「わしもそう思っているのだが、どうも今日は別の用件があるようだ。引き続き『こんにちは、ディケンズ先生』の先生をよろしくということだが、他にわしらに何をさせるのか、さっぱり見当がつかない」
「あっ、船場さんが来られたようですよ」
「船場君、わしらにできることがあったら協力させてもらうが、できることかな」
「橋本さんも田中さんもいつもお世話になっています。さっそくですが、橋本さんの問いに答えさせていただきます。協力していただくには私と同じくらいクラシックの知識をお持ちであるということが前提になります」
「それはわれわれは船場君のためにいろいろやって来たから、突然クラシック音楽のマニアックな話を田中君としても違和感はないだろう。だがしかしわしが身体にメリケン粉を着けて、田中君が青のりを身体に塗ってモーツァルトの交響曲の話をしても別に気を引くこともないだろう」
「いいえ、別に金粉も塗っていただく必要はありません。普通の恰好をして対話をしていただけばそれだけでいいのです。私は拙著の宣伝のためにお二人が頑張っていることを知っており、『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版1』『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版2』『こんにちは、ディケンズ先生3』『こんにちは、ディケンズ先生4』が出版される度に一所懸命に宣伝活動をしていただいたことはありがたく思っています。これからもずっと末永くお願いしたいと思っていますが・・・」
「ぼくは医療機関の夜間事務員ですし、橋本さんは警備員ですが空手の師匠です。われわれは船場さんの指示でいろいろやって来ましたが、こんどはクラシック音楽の解説ですか」
「ぼくはふたりのキャラが好きでいろいろ面白いことを考えて、後で自分でも吹き出してしまうようなこともしてもらいましたが、『こんにちは、ディケンズ先生』の宣伝をしていただくという縛りがありました。ですが、『こんにちは、ディケンズ先生3』『こんにちは、ディケンズ先生4』が2020年3月4日に出版されてからほんとに何にもないんです。それで一昨年あたりから懸賞小説を書き始めたのですが、一次選考にも合格していません。そうすると私の小説のことをあれこれ宣伝していただいているお二人の出番を作ろうにもできないのです」
「それで、クラシック音楽なのか」
「私はプチ小説で、「いちびりのおっさんのぷち話シリーズ」「たこちゃんシリーズ」「クラシック音楽の四方山話宇宙人編シリーズ」「長い長い夜シリーズ」などクラシック音楽を身近にしていただくプチ小説を書いています。以前対談というのもしたことがありますが、やはりテンポの良い2人でのやり取りというかたちの対談がいいのではとよろめき、いやひらめきました」
「対談なら、M29800星雲から来た宇宙人と福居も対話だし、たこちゃん(鼻田さん)と船場はんも対話だし、いちびりさんと船場も対話だから船場君の登場しない対話をする必要があるのかと思うのだが」
「他と違う点をあげるなら、テンポの良さがあります。それはこのプチ小説が戯曲のように地の文がないどころか、会話だけで構成されているからです。状況描写もト書きもないので簡単明瞭で読みやすい。また書く側としては情景の描写が必要なくいきなり本件に入られるのでクラシック音楽についてわかりやすく興味を持っていただけることをどんどんどしどし書いて行こうと前向きになれるわけです。例えば、M29800星雲からやって来た宇宙人は大好きなキャラですが、前振りが必要ですから、週に一話が限界です。でも対話だけなら2、3書けるのではないかと思います。何よりお二人の楽しい対話を頻繁に登場させることができてその内容が好きなクラシック音楽なのですから言うことはありません」
「そうか、それならわしらはその役割を果たそうと思うが、1つだけお願いがあるのだが」
「何でしょうか」
「田中君とわしの会話はクラシック音楽とこれまでやって来た『こんにちは、ディケンズ先生』の宣伝に限るというのだが。この上西洋文学の感想まで語るのではわしらの個性が薄れる気がするのだ」
「ぼくもそう思います」
「わかりました。西洋文学のことならN先生もおられますから大丈夫ですよ。じゃあ、1405個目のプチ小説も「青春の光」で行きますよ」
「でもたまには、船場さんも出て来てくださいね」
「もちろん、それは従来通りです」