プチ小説「青春の光 119」
「は、橋本さん、今回はどんなテーマでやりましょうか」
「わしはやはり船場君の人生を大きく変えた・・・」
「槍・穂高登山ですか」
「それもそうだがそれはここで対話する音楽の話題ではない」
「ではLPレコードコンサートですか」
「それはいずれ話したいが、今日は別の話題を話したい」
「となると一時船場さんが作曲家の評伝を読み漁ったことがありました。そのことでしょうか」
「確かにブラームスやワーグナーの評伝を船場君は楽しんで読んだようだが、それも違う、50才の頃に一念発起して今までにやったことがないことを始めただろ」
「ホームページをはじめたのは今から23年前で船場さんが43才の頃ですし、ライカM6を購入して写真をたくさんとるようになったのは今から25年前で41才の頃だったですし、クラシック音楽のエッセイを出版社に持ち込んでボツになったのは今から24年前で42才の頃だったですし・・・」
「わざとわからないふりをするのはしないでくれるか。船場君は50才で今までにやったことがないことに挑戦しようとクラリネットを始めたんじゃなかったのか」
「そうでしたね。忘れてました。船場さんは4月生まれですが、2009年3月の中旬に地元高槻のJEUGIA高槻店に行き店長にクラリネットのことで相談して、ヤマハのYCL650をローンで購入して(今はクランポンのRCですが)、クラリネットのレッスンをしているミュージックサロン四条に連絡をとってもらったのでした」
「船場君はすぐにミュージックサロン四条に行って月3回のグループレッスンを受けることを決めたのだった。それからコロナ禍での中断があったが、今尚クラリネットのレッスンを受けている。2009年4月から始めて当時は槍・穂高登山もしていて、いちびりのおっさんこといちびりさんに、仕事をしていて登山とクラリネットを趣味にするのは大変と言ったところ、いちびりさんは、それだったら山登りをしながらクラリネットを吹けばいいといったらしいが、2011年に『こんにちは、ディケンズ先生』を出版することに決めてからは山登りはしなくなった。それから仕事が忙しくなったらしいから、ちょうどよかったのかもしれない。休日はクラリネットの練習に専念できた」
「船場さんは予習をしないとレッスンについて行けないと思われていて、LPレコードコンサートがある時は東京のスタジオを借りて練習をしたこともあったようですよ」
「JR大井町駅近くのスタジオで数回、2時間練習したと言っていた。彼がクラリネットを自分で演奏したいと思ったのはやはりすばらしい演奏を聞いたからだろう」
「そうです。まず、レオポルド・ウラッハのモーツァルトのクラリネット五重奏曲です。第2楽章にうっとりしてウラッハの他のレコードも購入されました。モーツァルトのクラリネット協奏曲やシューベルトの八重奏曲は何度も繰り返し聞かれたようです。それからブラームスのクラリネット・ソナタ第1番と第2番はカール・ライスターとゲルハルト・オピッツの演奏にのめり込まれたようです。この第2番の演奏を聞かれて、少しでもこの曲が自分で演奏出来たらと思われたようです」
「クラリネットの名曲としてはブラームスのクラリネット五重奏曲とモーツァルトのケーゲルシュタット・トリオがあるが、船場君はどのレコードが好きなのかな」
「特にお好きなレコードはないようですが、ブラームスのクラリネット五重奏曲はウラッハを聞かれるようです。ケーゲルシュタット・トリオはメロス・アンサンブルのレコードを聞かれるようです。それからモーツァルトのクラリネット協奏曲はクラリネットの先生が孫弟子ということもあって、ジャック・ランスロのレコードをよく聞かれるようです」
「指揮者がジャン・フランソワ・パイヤールでA面がジャン・ピエール・ランパルとリリー・ラスキーヌが独奏のモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲だから両方楽しめるわけだ」
「ランスロの素朴な演奏はA面に劣らないよい演奏だと思います」