プチ小説「青春の光 120」

「は、橋本さん、前回はクラリネットの話をしましたが、今回はどうしましょう」
「前回では船場君がなぜクラリネットを50才になって始めたかと言うこととクラシックの名盤の話をしたが、ジャズについて話していない。だから今回はジャズの名演奏家、名盤について話したらどうだろう」
「ぼくはクラリネットのジャズ・ミュージシャンというとベニー・グッドマンくらいしか知りません。グッドマンは「ベニー・グッドマン物語」という映画があり「メモリーズ・オブ・ユー」という名演奏がありますが、他の曲の名演奏は知りません」
「そうだなー、「ベニー・グッドマン物語」の中で「グッド・バイ」を演奏するシーンがあるが、グッドマンはこの曲を演奏したレコードを残していない。ただの挿入歌のようなものだ。他にも映画の中で当時のミュージシャンと共演したことになっているが、それが「グレン・ミラー物語」のように1枚のレコードにして聞くことはできない。演奏形態がばらばらだからだ。それに何よりこの映画は「グレン・ミラー物語」や「五つの銅貨」のような感動的な映画ではない。「グッド・バイ」の演奏シーンしか残っていない」
「そうですか、でも、「シング・シング・シング」をジャズの名曲にしたのはグッドマンの功績ですし、ぼくは彼が演奏する「世界は日の出を待っている」のドーナツ盤を大晦日に掛けたりしますよ」
「私も彼の10枚組CDを買ったのだが、何を聞いたらいいのかわからず放ったままだ」
「きっとダンス音楽としては楽しいのでしょうが、ぼくもどこを楽しめはいいのかよくわかりません」
「まあ、船場君も2、3枚グッドマンのアナログレコードを買ったみたいだが、楽しめなかったようだ。他には誰がいるかな」
「船場さんが2、3枚CDを持っているクラリネット奏者にバディ・デフランコがいます」
「2、3枚どころか、「枯葉」「イン・ア・メロウ・ムード」「スイート・アンド・ラブリー」「ミスター・クラリネット」「ジャズ・トーンズ」の他アート・テイタムと共演したアルバムを持っているようだよ」
「選曲がいいので買われたみたいですが、盛り上がりに欠けるのでのめり込めないようです。音色がよくレコードもたくさん出ているのに残念だと言われてました」
「たまに棚から取り出して聴いてみるが音に惹かれないのだろう。アナログレコードを一枚も持っていないというのものめり込めない理由だろう」
「でも、デフランコは「クッキング・ザ・ブルース」「風と共に去りぬ」「プリティ・ムーズ」も面白そうだから船場さんは聞かれたらいいと思います。ぼくはアーティ・ショウも好きなのですが、CDがあまりに少なくて」
「確かに「ビギン・ザ・ビギン」「フレネシー」「ムーン・グロウ」「ムーン・レイ」なんかは名演だが、あまり残っていない。あまり残っていないと言えば、私はバディ・コレットの「ナイス・デイ・ウイズ・バディ・コレット」というレコードを一時よく聞いていた」
「チコ・ハミルトン・クインテットのサックス奏者ですね」
「彼はアルト、テナーサックスの他クラリネットも吹く。「ナイス・デイ」ではクラリネットを吹いていて、ジャケットはクラリネットを持って微笑んでいる」
「いわゆるジャケ買いを橋本さんはされたんですね」
「チコ・ハミルトン・クインテットはジム・ホールやフレディ・カッツ(チェロ)もいて船場君は興味津々だったようだよ」
「船場さんは寺島靖国さんの本を読んでチコ・ハミルトン・クインテットに興味を持たれたようです。「イン・ハイファイ」「ブルー・サンズ」は名盤だと思います」
「クラリネットから外れてしまった。他にクラリネット奏者の名盤はないかな」
「ちょっと厳しいかもしれませんが、バリトン・サックス奏者のジェリー・マリガンが「ナイト・ライツ」というアルバムで「ナイト・ライツ」をクラリネットで演奏していますが、これはCDのおまけです」
「サックス奏者でクラリネットから始めた人がいてその人のアルバムの中にクラリネットで演奏している曲が入っていることがある。やっぱり木製のクラリネットの音は柔らかくてそのアルバムの中のやすらぎになっている気がする」
「ぼくもそう思います」