プチ小説「青春の光 123」
「は、橋本さん、船場さんは20年近くLPレコードコンサートを開催して来られたのですから、いろいろ失礼なこと、いや恥知らずなこと、いや、怖いもの知らずだったんでしょうね」
「そうなんだ、船場君は知らないことをいいことにLPレコードコンサートをしてる時にいろいろ恥ずかしいことをして来た。その最たるものが、詳しいことは言わないが有名なドイツ語教授で翻訳家の先生がわからず、5年程してようやくわかったことだ」
「でもきっと今でも顔写真を公開されておられませんし、ご自身から名前を言われないとわからないと思います」
「そうかもしれないが、その先生は第1回のLPレコードコンサートに同僚の先生と一緒に来てくださったし、第2回は一人で来られ、忙しかったかもしれないのに船場君が、帰られたらLPレコードコンサートが続けられませんと泣きついたとのことだ」
「第2回の時は他にカップルがいてその人たちにも同じことを言ったようですね」
「3人がいてくださったから、最後までLPレコードコンサートが続けられた。そうではなく、終わった時に誰もいなかったら、マスターに続けていいか確認することも憚られただろう。しかしその後そういうことはなかったのだろうか」
「モントゥーを特集した時、最後の曲で一人になり、帰らないでくださいと頭を下げたことがあったようです。その他は少ない時でものべ7人くらい多い時は20人以上のお客さんがLPレコードコンサート中に来店されたようです」
「メールを何度かやり取りした女性が来場されたということもあったんだろ」
「詳細は言えませんが、2004年6月にワルターを特集してLPレコードコンサートを開催した時に、その少し前から船場さんのところに若い女性からメールが届き、LPレコードコンサートの会場で会いましょうということになったようです」
「当時船場君は槍・穂高登山のために鍛えていたので筋肉隆々だったが、頭髪はさみしかった。そんな船場君を見てその女性はがっかりしたことだろう。船場君も金髪で船場君よりも大きい女性で彼が描いていたイメージとものすごく違ったので戸惑ったようだ。そうしてLPレコードコンサートを境にしてその女性からのメールは来なくなったようだ」
「外国の方が何人か来られましたが、船場さんは英語もフランス語も話せないので笑って誤魔化したみたいです」
「船場君は大学の時、一般教育の語学は英語が3科目Aで1科目がB、ドイツ語は3科目がAで、随意科目で3回生の時に履修したスペイン語は2科目がAだったと自慢するがほとんど話せない。就職活動では海外で活躍できる企業に入りたかったようだが、そうなっていたらボディランゲージで頑張るしかなかっただろう」
「バロック音楽の特集をした時やマーラーの交響曲第3番と第7番の2曲でLPレコードコンサートをした時はオーディオ装置の調子が悪かったからか頻繁に針とびしましたが、たまたまお客さんが少なくて助かったようです。でもせっかく来ていただいた方には申し訳なかったと言われてました」
「船場君は心臓に毛が生えていて鋼鉄の脳みそをもっているから、何か予期せぬことが起きたら柔軟な対応ができずしかもふてぶてしい態度で見た目が悪い。20年近くやっていて場慣れしているだろうにそのようなことはない。66才になるんだから、スーツを着ろとは言わないがネクタイくらいしろと言いたいところだ。いつも黒のジーンズとルコックかアンブロの紺のポロシャツなんだから」
「船場さんはあの格好ならぎりぎり新幹線に乗るのを許されると言っていました」
「船場君がどのようにLPレコードコンサートをやって来たかを聞くと貧乏人の道楽という感じだ。クラシック音楽を高尚な音楽と考えると船場君の取り組み方は真面目とは言えない」
「でもそんなことを言っても、船場さんは空のポケットを見せて、だって元手がないんだからしょうがないでしょうと諦め顔で話されると思いますよ。そのうち船場さんは着る物がなくなって、入社4、5年してイージーオーダーの店でこさえた背広を着るかもしれないですね」
「それでも着る物がないよりましかなあ。若々しく見え・・・いや、それは無理か」