プチ小説「クラシック音楽の四方山話 宇宙人編 84」

福居は京都府立植物園の温室で花の写真を撮り終えて北山通りに面した出入口に向っているところだった。
<温室でワスレナグサが咲いていたけれど、キク科の植物ではないんだな・・・ははは、そうかあれはミヤコワスレだったな。高山植物の温室にあったが、園芸品種としても栽培されているようだ。菅原洋一さんの歌に出て来る勿忘草は多分花屋さんの店先で売られていた可憐な花で、詩人がトレッキングしていて見掛けたものではないように思うのだが・・・それから今日は前から見たかった鷺草が見られて良かった。今から20年ほど前に宇賀渓に行った時に土産物屋で売っていて買って帰ったのだった。1週間ほどで枯れてしまったけど、マクロレンズで撮ったのが残っている。その時から植物写真のマクロ撮影に凝り出した気がする。東京世田谷区のどこかで鷺草を栽培して販売しているとラジオで聞いたから一度行ってみたいと思っていたけどその必要はなさそうだな。他にマツバボタンやマツムシソウやツユクサも写せたから、今日はここに来た甲斐があった>
そう長い独り言を言いながら歩いているとマツバボタンが咲いている花壇でM29800星雲からやって来た宇宙人がブリッジをしながらマツバボタンを接写しているのが目に入った。宇宙人はなるべく地面に近いところから花にレンズを向けようと苦労しているようだった。
「谷さんも花の写真を撮影されるのですね。府立植物園にはよく来られるのですか」
「イマシャシンヲトットルトコロヤカラ、シズカニシテ」
福居がしばらく待つとM29800星雲からやって来た宇宙人はブリッジをやめて普通の姿勢に戻った。
「ヤッパリセタケノナイハナハサツエイガムズカシイナァ」
「ということは背丈の低い花を撮影する時に谷さんはいつもブリッジをするのですか」
「ムカシセンスイカンノヨウナファインダーガアッタヤンカ。デモイマハウッテナイカラジマエデセントイカンノヨ」
「アングルファインダーなら今も販売していると思いますよ。でもぼくはそんな無駄遣いをしなくても上から覗くようにすればスミレのような下向きの花でなければきれいに撮影できると思います」
「ソウカナア、ワシハブリッジスルホウガニンキモノニナレルシスキナンヤケドナ」
「それで今日はどんな花を撮られたのですか」
「ワシコスモスガスキナンヤケド、コトシハモウショガサイキンマデツヅイタカラ、マダサイトラン。9ガツモモウオワリヤトイウノニ」
「10月が見頃だったと思うので、もう少し待てばいいと思いますよ」
「ソウヤロカ、コトシハアキガミジカイトイウトルカラミノガサンヨウニチュウイセントアカントオモウケドナア。トコロデハナガデテクルクラシックオンガクッテアマリナイネエ」
「そうですね、ぼくが知っているのもチャイコフスキーの「くるみ割り人形」から「花のワルツ」くらいでしょうか。他に思いつくのは、モーツァルトの歌曲「すみれ」くらいかな」
「ソウカナア、オペラノタイトルニアルヤンカ、「バラノキシ」トカ「ツバキヒメ」トカ」
「薔薇と椿は花ですが、花そのもののイメージとは違っています」
「ソウカナア、オクタヴィアンヤヴィオレッタタハハナヲイメージサセルシサッキョクカモソレヲイメージシテカイタンヤトオモウヨ」