プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 いつか報われる日を信じて編」

わしは幼少の頃に大志を抱くことはまったくなかった。それは頭脳明晰でなかったしスポーツで身を立てるだけの基礎体力がなかったからや。もし記憶力が物凄くよかったり数学のセンスがあったり描画や音楽の才能があったらその一本道を突き進んでたかもしらん。そうならんかったのはこれをやったら、わしは誰より優れているというものを見つけることがでけへんかったからや。そやから高校生になっても関西の有名大学に何とか入ることしか考えとらんかった。SF小説やマンガ本を読んで、深夜放送を聞いて日々を過ごしとった。わしは高校生の時は写真部に入っとったから、親に一眼レフのオリンパスOM1を買うてもろてモノクロ写真ばっかり撮っとったけど自分には才能がないのがわかった。それに被写体を探すにはお金と時間が必要なことがぼんやりとわかっていた。そやから高級な写真機材を買うて湯水のごとくお金を使こうてあちこち旅行したらまぐれ当たりで素晴らしい景色が撮れたかもしらん。そやけどそれは一回しかでけんやろから、そこまでお金を注ぐ勇気はなかった。ほんでフォークソングにのめり込んだり、御三家のSF小説を読んで日々を過ごしとった。浪人時代が長引いた時にもしかしたら写真の才能があるんやないかと半年だけ写真学校に通っていたことがある。大判写真を撮影して現像して焼き付けたりする授業があったり、街に出て撮影した写真を見せ合って意見を出し合ったり、講師の先生が写真史で名を残した人の生涯を話したり、今売れている写真家の写真の素晴らしさに説明しとった。わしは当時郵便配達のアルバイトをして生活費にしとったが、後期の授業料を捻出でけんかった。そんでしばらくは写真学校に通学しているように両親に見せかけた。朝家を出て夜まであちこちウロウロして帰って来たんやった。それでも成人式の日にこのまま同じ生活を続けるわけに行かんと反省して、両親にそれまでのことを話して予備校に行かしてもろうたんやった。船場と同じように大学に入って頑張ったおかげで、会社員になれたけど、生活が安定してからはあまり無理せんと平凡な生活を送っとる。船場は有名私大に入れたから海外に雄飛しようとスペイン語を習ったりしよったが、地方公務員より先に内定が出たと医療機関に就職しよった。船場もわしと同じで将来はこういう職業に就きたいという願いがなくて、公務員やそれと同様の事務職を考えとったみたいや。そうして10年経過して昇進することもなく日々の仕事に明け暮れとったから、もしかしたら語学で才能が伸ばせるかと思うて通信教育で英語とスペイン語を習っとったらしい。修了証書はもろたが、それは何の役にも立たんかったみたいで転職することはなった。この頃から船場はそれまでやってた趣味をより中味のある物に変えようとした。ただアナログレコードを十数万円のステレオをで聞くだけでは満足でけんようになって外国のプレミアム盤をグレードの高いオーディオセットで聞くようになった。そうして随筆みたいなのをちょびっとだけ書くようになった。またカメラはそれまで愛用してたオリンパスOM1で撮った写真が緑っぽくて安っぽいと思うようになってライカを買いよった。交換レンズもズミクロン35ミリ、ズミクロン50ミリ、沈胴式エルマー50ミリ、沈胴式エルマー90ミリ、エルマリート21ミリだけでなくK&Fのアダプターを使こうて、オリンパスのマクロレンズや200ミリのレンズが使えるようにして接写や望遠撮影もできるようにしよった。船場は2002年頃からホームページを始めよったが、掲載する写真を撮りたいと北アルプスの槍・穂高や八ヶ岳に登ったり京都のお寺巡りをしよった。それくらいでやめとったらええのに、あいつ50才になったら新しいことをしたいとクラリネットを習い始めよった。2002年からは自分で収集したクラシックの名盤を聞いてもらおうと東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンで3ヶ月に一度LPレコードコンサートを開催しとる。他には世界の名作のいくつかの感想文を書いて古典入門のページとしてホームページに掲載しとる。そら、こんなことばっかりやっとったら出世もでけへんし長く勤めることもでけんわな。あいつ今年で67才になるけど、余生をどうするつもりなんやろ、そこにおるから訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、にいさん、私のことをいろいろ気遣っていただくのはほんとに有難いと思っているのですが、私はたこちゃんですが糸が切れた凧ではないのです。そうか、ほたら一言で言うたらどう言うの、言うてみて。そうですね、そうですね生涯一写真愛好家、クラシック音楽愛好家、西洋文学愛読家、アマチュア小説家、クラリネット愛好家、アナログレコードコレクターと言ったところでしょうか。母親の世話をしながらなので大風呂敷を広げることは不可能ですが、みなさんに喜んでいただけるようなものをホームページを使って提供したいと考えています。でも一度くらいは小説で賞をいただいて今まで頑張った甲斐があったなと思えたら、振り返って私の人生も少しは報われた時もあったなと思えるんじゃないでしょうか。うんうん、お前もようやく悟りを開いたな。そんなー、私はまだまだ頑張りますので、ピリオドを打たないでください。