プチ小説「こんにちは、N先生 118」
私は年が明けてからは1月10日に老健施設を退所した母親の世話で母校の図書館に行くことができなかったのですが、1月21日にようやく行くことができました。そうは言っても、2022年8月から始めた図書館通いも今年の7月末で丸4年になりますので第2の大学生活も期間だけは満了したということで後は不定期に月に数度大学図書館を訪れるだけにしようかと思っています。その理由としては母が老健施設を退所した後に訪問看護の日が火曜日になったためクラリネットのレッスン日と重なり、どうしても大学図書館に行けなくなったということもあります。それでも大学図書館で学生さんと肩を並べてパソコンで原稿を打ったり文学を読んだりするのは心はずむことなので70才を過ぎても続けられたらいいなと思っています。そんなことを思いながら、昼ごはんに朝セットを食べようとま〇やに向っていると後ろから、N先生の声がしました。
「君は中野好夫訳モームの短編集から『雨』を読んだようだけど、面白かったかい」
「ああ、先生もま〇やに行かれるのですね」
「そうさ、今やっている「ちいかわのすき焼き鍋膳」はおいいしいし食券キーホルダーももらえるからね」
「キーホルダーを集めておられるのですか」
「そりゃー、ぼくだって可愛いものに心惹かれることはあるよ。君はコレクターだからいろいろ集めているだろ。中古レコード、中古CD、古本それから昔はライカのレンズも集めていた」
「でも今は資金がないので、収集も昔のようにできません。ライカレンズは高くて買えませんが、中古レコードも最近は2,000円以下ばかりで3,000円以上のレコードを買うことはほとんどありません。古本も1,000円以上のものは最近買っていません。それに大学図書館もいつまで来れるか」
「でもそれが君の創作意欲を喚起するのなら続けるべきだよ。ぼくも京都市内の方が登場しやすいし」
「そうですね、先生とお会いできるのも小説の中だけですから」
「で、『雨』はどうだった」
「解説のところで中野氏は、「世界短編小説至上にも永久に残る傑作であろう。短編小説作家としてのモームのあらゆる特徴を集約的に結晶させたものといえよう。ことに雨という自然現象が、人間心象におよぼす微妙な影響を描いて、心にくいばかりである」と書かれていますが、あまり面白い作品ではありませんでした」
「そうなのか、どこが不満なのかな」
「まず、牧師さんが一所懸命、淫らな商売をしている女性を改心させようと頑張るが、その女性の手練手管に翻弄されて手を付けてしまい牧師さんが悲惨な最期を遂げてしまうという話で、無神論者のモームが描きそうな話ですが、傑作と言われるほどの内容がある話でしょうか。それに『人間の絆』や『月と六ペンス』のように興味深い人物が出て来ません。悪役のミス・トムソンだけが怪しげな光をギラギラさせるという感じです。なのですごく読後感が悪いです。最後のミス・トムソンの台詞で医師のマクフェイル博士がすべてを悟るというのも短編手法としては秀でているのかもしれませんが、台詞が生々しく過激でこれも後味が悪いです」
「じゃあ、いいとこなしなのかな」
「ぼくは高校生の時からモームの小説に興味があって、『人間の絆』はずっと愛読していて、『月と六ペンス』は龍口直太郎訳でようやくその面白さがわかったのですが、『雨』は品がないので好きになることはないでしょう。好きな作家でも好きになれない小説はあるものです」
「君が好きなディケンズにもそういう小説があるのかな」
「あります。『マーティン・チャズルウィット』は3度読みましたが、いつも読後感が悪いのでもう読まないと思います」
「まあ、研究者じゃないから、お好きなように」