プチ小説「こんにちは、N先生 119」

私の岡山県の親戚は毎年年末に母親が送ったお歳暮のお返しに新米と丸餅と豆餅を送って来るのですが、今年はお米をたくさん送って来たので美味しいお米で炊き込みご飯(もちろんレトルトですが)を炊いて母親に食べてもらうことにしました。今までに地鶏、かに、ホタテ、たけのこ、鮭などの炊き込みご飯を作ったのですが、やはり私はたけのこご飯が一番好きです。母親も柔かい部分だけのたけのこを喜んで食べるので、高槻松坂屋の地下食料品街に買いに行きました。一緒に鰹めしの素を買って地下街から出るとN先生がJR高槻市に向うエスカレーターに乗ろうとされているところでした。N先生は私に気付かれると微笑まれました。そうして方向転換して私の方へと歩いて来られました。
「ぼくは今から北野天満宮へ行って梅を見ようと思うんだが、一緒に行かないか」
「梅苑が今見頃ですよね。生憎写真機材を持って来ていないので・・・。私は10年に一度くらい写真撮影に行きたくなるのですが、3年前に行ったのでちょっと難しいです」
「ははは、そう言うだろうと思ったよ」
「つき合いが悪くてすみません」
「いや、いいんだ。君が爪に火を灯せなくなって、髭を伸ばし始めたのを知っているからね」
私はそんなあほなーといいたかったのですが、恩師にそんなことは言えないので、先生、好調ですねとだけ言いました。
「ところで君は岩波文庫の「千一夜物語」全13巻の第8巻を読み終えたようだが、面白かったかい」
「ええ、とても。千一夜物語にしばしば登場するハルン・アル・ラシッドが王妃のセット・ゾバイダとともに登場する物語が2つもあるからです」
「ハルン・アル・ラシッドは8~9世紀に活躍したアッバース朝の君主で王妃のセット・ゾバイダとともに登場する。ハルン・アル・ラシッドは宮殿の奥で威風堂々としているタイプの君主ではなくて市井で庶民と気さくに会話を交わすタイプの王でカリフやハサンと気軽に会話を交わしている。彼の物語には必ず美しい女性が登場する。そうしてそれにセット・ゾバイダが反応して物語を面白くする」
「そうですね、カリフが登場する『カリフと教王の物語』でセット・ゾバイダは嫉妬心を起こして「心の力」に変な薬を飲ませます。またハサン・アル・バスリが登場する『ハサン・アル・バスリの冒険』ではハサンの嫁の耀い姫がハルン・アル・ラシッドに気に入られて自分の地位が危なくなるのではないかと考えて耀い姫に羽衣のことを思い出させて生まれ育った地に戻ることを決心させ、ハサンを悲しませます」
「まったく、カリフやハサンは幸せな生活を一時的に壊されるのだから、セット・ゾバイダはあまりいい人とは言えない」
「でも波乱万丈があって最後にはハッピーエンドが待っているのですから、安心して最後まで読むことが出来ます。読者には楽しい物語です」
「ところで君は次に第9巻を読むと思うが、楽しみなことがあるだろ」
「ええ、やっとアラジンが登場します。最後の180ページほどに登場するので、その前に350ページほど読まないといけません」
「で、ついでにアリババは何巻に登場するんだい」
「第11巻に60ページあまり登場するようです。それまでにもハルン・アル・ラシッドは登場するようですよ」
「そうか、そうなると『千一夜物語』の主役はしばしば登場するハルン・アル・ラシッドと言えるかもしれないね」
「そう、その通りだと思いますが、セット・ゾバイダは名脇役と言えると思います」