プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 ヴァイオリンの音色がオーケストラと溶け合って編」

わしは幼少の頃から歌謡曲はよう聞いたが、クラシック音楽とは無縁やった。特にヴァイオリンとかの弦楽器の演奏を聞くことは全然あらへんかった。ヴァイオリンの生の音を聞くことは小中学生ではまずない。それでもヴァイオリンには人を惹きつける力があるから、それを子供の頃に聴いたら魅せられて好きになる可能性は充分にあると思う。大学を卒業して船場と知り合ってからいろんな楽器の音を聞いたが、それはレコードを通してで、生演奏を聞いたことはほとんどない。船場は一度だけブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を生で聞いたことがあるようやけど、わしはヴァイオリンがピアノ伴奏やオーケストラをバックにしてヴァイオリンの曲を演奏するコンサートには未だに行ったことがない。ヴァイオリンの音色は生で聞くとうっとりするええ音なんやろけど、アナログレコードで聞いても安らぎに満ちたええ音がする。ピアノは10本の指でメロディを弾いたり和音を鳴らしたりして一人でもいろんな音楽を演奏できるけど、ヴァイオリンは倍音が出せるとは言え、ピアノのような華やかな演奏は一人では難しい。でも音色についてはヴァイオリンの方が美しい。そやからピアノ音楽の演奏会もええけど、ヴァイオリンのええ音が聞ける演奏会をもっと音楽に興味を持ち始めたちいこい子供に聞かせたら、クラシック音楽の裾野が広がると思うんや。それもレコードやなしに生演奏で。もちろんメンデルスゾーンやチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲である必要はない。クライスラーの小品で十分や「愛の喜び」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」「ユモレスク」「ロンドンデリーエア」なんかをちょびっと聞いただけで、子供はええなあと思うに決まっとる。スポーツの合間にそういうのに触れたら子供は喜ぶんとちゃうやろか。船場は相変わらず、コンサートに行くだけの金がないと言っとるが、買いたいと思うたアナログレコードはだいたい買いよったみたいや。ハイフェッツ、エルマン、リッチ、ミルシテイン、グリュミオー、オイストラフ、カンポーリ、フランチェスカッティ、シェリングなんかええでっせちゅーとった。どんなヴァイオリン協奏曲を聞いているのかを聞いとらんから、一編訊いてみたろ。おーい、船場ーっ、おるかーっ。はいはい、ヴァイオリン協奏曲の名曲ですね。バッハもヴァイオリン協奏曲2曲と2台のヴァイオリンのための協奏曲を書いていてよく演奏されますが、やはり古典派、ロマン派からいくつかあげたいと思います。最初はモーツァルトやな。5曲あって第5番だけが「トルコ風」という標題が付いていて目立ちます。でも第3番は美しいので人気があります。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は他の追随を許さない金字塔と言ってもよいすばらしい作品です。シューマンのヴァイオリン協奏曲は時に激しく時に甘く、シューマンらしい音楽と思います。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ほどの長大で心に沁みる音楽ではありませんが、美しく繊細で誰もが好きになる音楽です。ブラームスは彼らしい風格のある安らぎに満ちた音楽を作っています。ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲に似た美しい曲ですが、同じくらいの長さで3つの楽章を続けて演奏するところも似ています。サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番はヴァイオリンという楽器の音色をたっぷり楽しませてくれる名曲で、この曲はフランチェスカッティが唯一無二のすばらしい演奏をしています。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と一緒のレコード(CD)になることが多いですが、一人で2曲を演奏する演奏会が実施されたことはないと思います。そらそうやろな。でもにいさん、ヴァイオリンの音に魅せられるからクラシックのレコードを聞き続けていると思うので、ヴァイオリンの音色が聞ける機会がもっと増えるといいですね。でも船場は金がないからこれからもアナログレコードで我慢せんとしゃーないがな。否定はしません。