プチ小説「たこちゃんの秘密」
ハワユー、コモエスタウステ、ヴィーゲエトエスイーネンって言うのはご機嫌いかがという意味だけれど、
もう少し学生時代に語学を勉強しておけばよかった。大学時代は法学部の学生だというのに法律の勉強を
ほとんどしないで、語学ばかりを勉強していたのだが、ぼくの場合、深く掘り下げるというのが苦手なので、
第1外国語を英語、第2外国語をドイツ語で履修した他、3回生になって随意科目でスペイン語の簡単な
文法とリーダーを履修しただけなんだ。3回生になってリーダーズダイジェストを英文で読む授業も受けた
けれど、タイムやニューズウィークを読むレベルまでは行けなかったんだ。ドイツ語も随意科目であったけど
選択しないで、イタリヤ語やフランス語の入門書を読んで悦に入っていたんだ。就職活動の際、海外に雄飛
したいとえらそうなことを言っていたけれど、実際資格としては中学校の時に取得した英検4級だけなんだ
(英検3級は面接試験で落ちてしまった)。大学を卒業して2年ほどして、リンガフォンで英語の勉強を
始めたが、どうしてもRとLの発音の区別ができなくて何度発音試験のテープを送っても不合格だったんだ。
それでもなんとか最後までテキストは修了した。大学時代の一般教養の講師の先生が、留学した友人が
ぼくと同じように、RとLの使い分けができず、ある日米屋に行って、米を購入しようとriceを下さいと言った
つもりなのに、うちにはlice(しらみ)は置いていないと言われて追い返された話をされて、それから
RとLの発音をする時に口元が強ばるようになったんだ。発音試験が不合格だったせいか修了証書はもらえ
なかったのだけれど、それから2年程して始めたスペイン語コースは、無事履修し終えた。スペイン語は
民族的なおおらかさがあるからか、RとLの発音についてきびしいチェックはなく、自分で作文した話を
担当のスペイン人は喜んで聞いてくれた(もちろんやり取りはテープだったが)。そうしてしばらくして
スペイン語コースの修了証が送られて来たが、一緒に英語のコースのも送られて来た。その後ドイツ語
コースのテキストも購入したが、仕事が忙しくなりそれどころではなくなった。お金がかからずインテリに
なったような気になれるいい趣味だと思ったが、自宅でコツコツ勉強するのは独善に陥る恐れもあるし、
英会話(スペイン語会話、ドイツ語会話)学校に行けば、友人ができてよかったかもしれないと今は思っている。
そう言えば、駅前で客が声を掛けるのを待っている、スキンヘッドのタクシー運転手を最近見掛けなかったが、
今日はいるので、声を掛けてみよう。「こんにちは」「ああ、お客さん、コモエスタ赤坂」「な、なんですか
それは」「いや、最近、カラオケに凝っていて、思わず教養があふれ出てしまった。この曲と「夜の銀ギツネ」は
スペインのテイストがあるので、ぼく、好きなんです」「そうですか。ところで特典はチャラという話を
していたけれど...」「お客さん、こまかいこと言わんでよろし。お客さんとぼくの友情はたった今復活
したんよ。そやから、これあげるわ」そう言って、広告を切ってA6位の大きさにした切片をくれたけれど、
そこには、「肩たたき券、おとうさんいつもごくろうさま」と書かれてあったんだ。ぶつぶつぶつ...。